生物学:「大部分の哺乳類の雄は雌より体が大きい」とは言えない
Nature Communications
2024年3月13日
ほとんどの哺乳類種の雄の体は雌よりも大きいという説明が一般的になされているが、実際はそうではないことを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される著者らは、雄の体が雌より大きいという誤解を生み出したのは、1世紀以上にわたって科学文献に存在した数々の偏りだったのではないかと考えている。
哺乳類の場合、同じ種の雄個体と雌個体の体格差は種によって異なっており、交尾相手の獲得競争の程度や、親が仔にどれだけ投資するかが関係している。例えば、比較的体の大きいライオンとヒヒの雄は、交尾相手を巡って身体的競争を行い、比較的体の大きい雌ウサギは、通常、それぞれの交尾期に複数回の出産をする。雄と雌の体サイズが変わらない哺乳類種は決して珍しくないことがこれまでの研究で明らかになっているが、ほとんどの哺乳類で雄の方が雌よりも大きいという一般的な説明が続けられている。
今回、Kaia Tombakらは、野生の哺乳類種429種の雌雄の体重を比較した。その結果、雄の体が雌より大きくない種が数多く見られ、雌雄が同じサイズである種も多かった。例えば、キツネザル、キンモグラ、ウマ、シマウマ、テンレックの雄と雌は、通常、同じようなサイズだった。これに対して一部の哺乳類種では雌雄間の体格差が大きかった。例えば、キタゾウアザラシ(雄の体サイズが雌の3倍)、テングコウモリ属のMurina peninsularis(雌の体サイズが雄の1.4倍)などだ。Tombakらは、今回の研究は全ての哺乳類種を調べたものではないが、一部の哺乳類種を対象から外していた過去の研究を考慮すると、今回明らかになった傾向は理にかなっていると結論付けている。「雄の方が大きい」という説明がなされてきた理由として、Tombakらは、雄の方が大きい、カリスマ性のある種やキーストーン種(中枢種)に関する研究や、霊長類やアザラシなどの交尾相手を巡る雄同士の競争に関する研究に偏っていたからではないかと考えている。これに対して、哺乳類の中ではるかに大きな割合を占めるげっ歯類とコウモリ種においては、雌雄間の体格差は小さかった(コウモリの約半数は雌の方が大きかった)。
Tombakらは、哺乳類の体サイズに関するデータが今後さらに収集されるにつれて、今回の知見が修正される可能性があると指摘し、さまざまな生物種の雌の生物学的特性に関する研究をさらに実施することを推奨している。
doi:10.1038/s41467-024-45739-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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