神経科学:消毒剤などに含まれる化学物質が脳の支持細胞に害を及ぼす
Nature Neuroscience
2024年3月26日
一部の消毒剤や難燃剤に含まれる2種類の化学物質が、脳の支持細胞の一種であるオリゴデンドロサイトの発生を阻害する可能性があることが実験室実験で示された。このことを報告する論文が、今週、Nature Neuroscienceに掲載される。今回の知見は、これらの化合物がヒトの健康に及ぼし得る影響を突き止めるためにさらなる研究を行うことの必要性を強調している。
ヒトは日常的に多くの環境化学物質にさらされているが、その潜在的な健康への影響はほとんど解明されていない。脳の発生発達は、環境毒性に対して特に脆弱だ。環境化学物質の脳への影響に関する研究の大部分はニューロンを対象としており、脳の支持細胞(オリゴデンドロサイトなど)への影響はあまり分かっていない。オリゴデンドロサイトは、ニューロンを包み込んで、その情報伝達能力を向上させ、脳の白質(ミエリンとも呼ばれる)を形成する。オリゴデンドロサイトの発達は出生前から成人になるまで続くため、特に有毒化学物質によって損傷されるリスクが高いと考えられる。
今回、Paul Tesarらは、実験室内でマウスのオリゴデンドロサイトを培養し、1823種類の化学物質がオリゴデンドロサイトの発生に及ぼす影響を調べた。このスクリーニングの対象となった化学物質のうち、292種類の化学物質がオリゴデンドロサイトを死滅させ、さらに47種類がオリゴデンドロサイトの生成を阻害した。Tesarらは、こうした悪影響を引き起こしたのは、2つの化学物質群に属する化学物質であると特定した。一部の消毒剤に含まれる第四級化合物は、オリゴデンドロサイトを選択的に死滅させ、一部の家具や建材に含まれる有機リン系難燃剤は、オリゴデンドロサイトの発生を停止させた。こうした結果は、マウスとヒト培養オリゴデンドロサイトにおいて確認された。Tesarらは、これらの実験室実験に加えて、米国疾病管理予防センター(CDC)の国民健康栄養調査のデータを解析した。2013~2018年に収集されたデータによると、難燃剤代謝物の1つであるビス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)ホスフェート(BDCIPP)が、検査対象の3~11歳の小児のほぼ全て(1763人中1753人)の尿検体に存在しており、尿中BDCIPP濃度は近年増加していると考えられる。Tesarらは、BDCIPP濃度が高いことは、有機リン系難燃剤への曝露が多いことを示しており、粗大運動機能障害が発生して特殊教育が必要となる可能性が高いことと関連していたと述べている。
Tesarらは、これらの化学物質の影響を高い精度で解明し、ヒトの健康に対するリスクを評価するには、さらなる研究が必要だと結論付けている。
doi:10.1038/s41593-024-01599-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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