食物学:EUの農業補助金の大半は温室効果ガス排出量の多い畜産業に支給されている
Nature Food
2024年4月2日
欧州連合(EU)の農業補助金の82%が、温室効果ガス排出量の多い畜産業の支援に充てられている可能性を指摘する論文が、Nature Foodに掲載される。この知見は、1986年から2013年までのデータ(現在入手可能な最新のデータ)に基づいたものであり、82%という値は、これまでの評価で示された値よりも高い。
世界の食料システムは、温室効果ガス排出量全体の約3分の1の原因となっており、世界の居住可能な土地の半分に依存し、世界の水消費量の80%(推定値)を占めている。EUの共通農業政策(CAP)は、農業を環境にやさしい方向へと導く上でのカギとなっており、動物性の食餌からの脱却は気候変動緩和のための戦略の1つとなっている。
今回、Anniek Kortleveらは、物量の流れを把握する食料・農業系バイオマス投入産出(FABIO)データベースの1986~2013年のデータを使用し、これを農業会計データネットワーク(FADN)の公共データベースを用いてEUのCAP補助金とひも付けた。Kortleveらは、これらのデータセットを用いて、2013年(現在入手可能な最新のデータの年)の世界の食料サプライチェーン全体における補助金の流れを追跡調査した。ここには、国内で販売された製品、他のEU加盟国が輸入した製品、またはEU加盟国以外の国々に輸出された製品に盛り込まれた補助金が含まれている。
その結果、2013年には、食料生産のためのCAP予算の82%が動物性製品に支出され、そのうち38%が直接支出され、44%が動物飼料の生産に支出されたことが明らかになった。また、動物飼料を考慮に入れると、動物性食料に対する補助金集約度(ユーロ/キログラム)がほぼ倍増することが分かった。Kortleveらは、これらの動物性食料は、2013年にEUで消費されたカロリーの35%とタンパク質の65%しか賄っていないにもかかわらず、EUでの食料生産によって排出される温室効果ガスの84%に関連していると指摘している。
Kortleveらは、EUのCAPにおいて動物性製品が望ましいものとされていないにもかかわらず、畜産業(動物飼料を介した場合を含む)を支援することは、より持続可能な食料生産への移行にとっての経済的阻害要因になるという見解を示しており、今回の知見が、環境的成果と食料安全保障のためにCAPの再設計を研究する上での基盤になる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s43016-024-00949-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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