気候変動:南極の氷から取り出せなくなる隕石試料が増える可能性
Nature Climate Change
2024年4月9日
地球外天体の試料である隕石は、南極で数多く見つかっている。このほど行われた研究で、南極の氷床表面に存在している数千個の隕石が、気温上昇のために氷の中に沈み込むスピードが速くなり、その多くが採集・利用できなくなる可能性が増すという予測が示された。このことを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。
地球外天体(月、火星や大型の小惑星など)に由来する隕石は、惑星科学にとっての重要な知識源になっている。これまでに採集された隕石の60%以上が南極で採集されており、まだ30万~85万個の隕石が採集されずに氷床に残っていると推定されている。ところが、こうした隕石の保管庫が、気候変動のために脅かされている。隕石が氷の中に沈み込み、研究者の手が届かなくなるためだ。
今回、Veronica Tollenaar、Harry Zekollariらは、南極における隕石の分布を推定する機械学習法と地域気候モデルによる気候変動のシミュレーションを組み合わせて、さまざまな気候変動シナリオにおいて、どれだけの隕石が採集できなくなるかを予測した。その結果、今後数十年間に、どのような排出シナリオであっても、毎年約5000個の隕石が採集できない状態に陥る可能性のあることが判明した。著者らは、現在の気候政策では、産業革命前と比べて2.6~2.7℃の気温上昇となると推定され、南極に眠る隕石の28~30%が採集できない状態に陥る可能性があり、高排出シナリオでは、最大76%に達すると指摘している。失われてしまう隕石が特に多いのが東南極のグローブ山脈やエンダービーランドなどの地域で、隕石が密集している地域では最大50%が失われる可能性があることも明らかになった。
隕石は、天体物質の大型試料であり、さまざまな天体に向けた高コストの採集ミッションを実施しなくても入手できる。著者らは、南極に存在する隕石が気候変動の結果として失われてしまう前に、協調的な取り組みによって隕石を採集する必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s41558-024-01954-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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