気候変動:海洋での致死的な極端低温事象の強度と頻度が高まっている
Nature Climate Change
2024年4月16日
極端に低温の湧昇事象は、さまざまな海洋生物の大量死をもたらすことがある。この事象の頻度と強度が共に増していることを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。このためにオオメジロザメ(Carcharhinus leucas)などの回遊性の種が、こうした気候事象の悪影響に対して脆弱性を高めている可能性がある。
熱波が海洋生物種に及ぼす影響に関する研究は進んでいるが、極端低温事象の影響はそれほど分かっていない。気候変動を原因とした海流や気圧の変化は、湧昇事象(海洋の低層の冷水が表層に押し上げられる事象)の激化に関連していることが明らかになっている。しかし、こうした極端低温事象が海洋生物種の分布、移動、生存にどのような影響を及ぼすかは解明されていない。
今回、Nicolas Lubitzらは、2021年に南アフリカ沖で発生した特異な事象において81種の海洋生物260個体以上が死滅した事例の分析を行った。これに加えて、Lubitzらは、41年間の海面水温データと33年間の風の記録を用いて、過去30年間にインド洋のアガラス海流と東オーストラリア海流の沿岸寄りの海域で発生した致死的な極端低温事象の頻度と強度を調べた。そして、オオメジロザメを用いて事例研究を行い、こうした極端低温事象と海洋生物種の移動と生存との関連を調べた。
Lubitzらは、2021年の事象における海洋生物の死が、極端に低温の湧昇に関連していることを明らかにした。この結果は、このような湧昇事象が、広範な温度ニッチを占める多様な海洋生物種に悪影響を及ぼし得るという懸念を生んでいる。Lubitzらは、さらなる解析の結果、上記の海域で1981~2022年に極端に低温の湧昇事象の頻度と強度が増したことも明らかにした。また、標識されたオオメジロザメは、温暖な季節だけ生息域の極地側の限界付近の低温海域にいたことが判明した。これは、別の研究で明らかになったオオメジロザメが19℃未満の海水を回避するという行動パターンと一致している。一方で、オオメジロザメは、急激な水温低下を経験するリスクを最小化する行動戦略も示していた。例えば、湧昇帯を通過する際には表層に近い海域を遊泳することや、入り江や河口に避難する頻度を高めることなどだ。Lubitzらは、極端に低温の湧昇事象のリスクが高くなると、海洋温暖化によって生息域を拡大させた海洋生物種が、新たに広がった生息域で極端低温事象に突如遭遇するリスクにさらされる可能性があるという見解を示している。
Lubitzらは、オオメジロザメのような回遊性の種は、長期的な温度限界付近の海域で活動していると考えられ、発生頻度を増している極端な気候事象によって引き起こされる急激な水温変化に対して特に脆弱な可能性があると述べている。
doi:10.1038/s41558-024-01966-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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