創薬:脳オルガノイドを使って神経発達障害の治療法を検証する
Nature
2024年4月25日
脳オルガノイド(幹細胞から作製したモデル)とアセンブロイドを使って、ティモシー症候群(重度の神経発達障害の1つ)に対する遺伝子修正治療法候補を検証したことを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見は、現在治療不可能な疾患に対する治療戦略の検証において、幹細胞モデルを用いる方法が有益なことを実証している。
ティモシー症候群は重度の多臓器疾患で、生命を脅かす心臓の欠陥、自閉症、てんかんやその他の神経精神症状を特徴とする。細胞内のカルシウムシグナル伝達に関与するタンパク質(カルシウムチャネル)をコードするCACNA1C遺伝子は、ティモシー症候群に関係していると以前から考えられており、治療標的となる可能性がある。脳オルガノイド(ヒト幹細胞由来の3D脳様組織)は、疾患を再現し、ヒトの治療応答性を予測する点で優れており、これによって有効な治療法の開発を実現できる可能性があるため、特定の疾患において罹患した特定の細胞タイプを標的とする介入法の検証に役立つ可能性がある。
今回、Sergiu Pașcaらは、アンチセンスオリゴヌクレオチド(短鎖合成RNA)を用いてCACNA1C遺伝子の一部を標的とし、負に機能する変異型チャネルの発現を抑制する戦略を開発した。そしてPașcaらは、この戦略を検証するために、ティモシー症候群患者3人から採取した幹細胞に由来するオルガノイドを用いてモデルを作製した。Pașcaらは、このオルガノイドを、まず若齢ラットの脳に移植し、オルガノイドが成長し、複数タイプの細胞に成熟して、ラットの脳に組み込まれることを明らかにした。次に、このラットに上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与すると、脳オルガノイドにおいてカルシウムチャネルの欠陥が修正されることが分かった。
同時掲載のNews & Viewsでは、Silvia Velascoが、この研究が「現在治療不可能な神経変性疾患や神経発達障害の治療のための創薬研究に脳オルガノイドを導入することを強く主張している」と述べている。
doi:10.1038/s41586-024-07310-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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