考古学:アフリカ北部の狩猟採集民の食事は植物中心だった
Nature Ecology & Evolution
2024年4月30日
現在のモロッコ・タフォラルトにある後期石器時代の遺跡から出土した狩猟採集民は、その地域に農業が伝わるはるか以前から、主として植物を食べていたことを明らかにした論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。この知見は、農業の起源に関する従来のモデルに異を唱え、狩猟採集民の食事に対する植物の重要性を裏付けている。
狩猟や採集から農業への移行は、人類の食事に大変革をもたらしたが、農業の発達に関する科学的な理解は、多くが西アジアから得られている。西アジアでは、更新世末期(約1万4000~1万1000年前)にナトゥーフ文化の狩猟採集民が野生植物を利用しており、彼らは野生植物を耕作し、最終的には栽培化を始めるほどだった。これに対し、中近東からアフリカ北部に農業が伝わったのは約7600年前の新石器時代のことであり、現地のイベロマウルシアン(Iberomaurusian)の狩猟採集民は、中近東のナトゥーフ人と時代的にも遺伝的にも近かったが、本格的に野生植物を利用してはいなかったと考えられていた。
今回、Zineb Moubtahijらは、モロッコ・タフォラルトの大規模なイベロマウルシアン遺跡から、1万5077~1万3892年前(後期石器時代)の動物やヒトの遺骸を採集した。そして、同位体を用いる方法により、食物中の肉、魚、植物の比率を分析した。その結果、これらの人々(離乳した幼児を含む)は動物性タンパク質を摂取してはいたが、主として食べていたのは植物(おそらくはデンプンの多い木の実や穀物)であり、植物が常時保存され安定した食物供給が図られていた可能性があることが明らかになった。このコミュニティーの植物への依存は、この地域への農業の伝来に数千年先行していた。
タフォラルトでは、中近東とは異なり、植物食への強い依存が植物栽培の発達にはつながらず、これは農業が野生植物利用の必然的な帰結ではないことを示すのではないかとMoubtahijらは示唆している。そしてMoubtahijらは、植物性食物の安定供給を実現することが、動物性食物の季節的な不足からタフォラルトの人々を守り、ある程度の定住を可能にしたのかもしれないと考えている。
doi:10.1038/s41559-024-02382-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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