微生物学:プラスチックを分解する細菌が廃棄物の削減に役立つかもしれない
Nature Communications
2024年5月1日
プラスチックの一種に細菌を組み込むと、そのプラスチックが土壌に触れた時に急速な分解が促進されると報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この細菌の胞子は、プラスチックが使用されている間は休眠状態にあるが、プラスチックが不要になって廃棄されると、覚醒してプラスチックの分解を促進する。著者らは、このスケーラブルになり得る方法を使えば、地球規模のプラスチック汚染を緩和する希望がもたらされる可能性があると述べている。
プラスチックの一種である熱可塑性ポリウレタンは、携帯電話ケース、履物、自動車部品などの製品に広く使用されている。しかし、現在のところ、ポリウレタン類のリサイクルの流れは存在しないため、ほとんどは使用後に埋め立て廃棄物となるか、環境中に浸出する。これまでの生分解性ポリウレタンの開発研究では、通常、ポリマーの機械的特性が十分でなく、工業生産にスケールアップすることが難しかった。
今回、Jonathan Pokorski、Han Sol Kimらは、プラスチック分解細菌の一種である枯草菌(Bacillus subtilis)の胞子をプラスチックに組み込むという方法によって、生分解性の工業用熱可塑性ポリウレタンを開発した。著者らは枯草菌を遺伝子操作して、ポリウレタンの製造に必要な極端な高温に耐えられるようにしたところ、枯草菌の胞子は、ポリウレタンの加工温度である135℃でほぼ全て生存できるようになった。そして、このポリウレタンを模擬環境で廃棄する実験では、ポリウレタンが堆肥中の特定の栄養素へ曝露されることが引き金となって、ポリウレタンの急速な生分解が起こった。そして、枯草菌の胞子を組み込む方法を用いた結果、5カ月間で90%以上のポリウレタンが生分解されることが明らかになった。また、このポリウレタンの靭性は、胞子を含まない熱可塑性ポリウレタンと比べて約37%向上した。
著者らは、細菌の胞子が組み込まれたポリウレタンは環境保護の観点から有望であり、機械的に強靭で、分解が速いため、従来のリサイクルできない熱可塑性ポリウレタンの代替品となり得るという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-024-47132-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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