工学:トカゲにヒントを得た建物系は全倒壊を免れるかもしれない
Nature
2024年5月16日
建物が壊滅的な損傷を受けても、構造破壊を損傷部分に確実に局限することで、建物全体の倒壊を防ぐことができる新しい建築方式について報告する論文が、Natureに掲載される。この建築方式は、トカゲが自らの尾を切り落として捕食者から逃れる能力から着想を得ている。
建物の倒壊は、地震、車両の衝突、建築ミスなどのさまざまなストレス要因から発生することがあり、人命の損失につながる可能性がある。倒壊を回避するための現行の設計法では、通常、建物の初期破壊を無傷の構造部材に再配分することによって、初期破壊の拡大を防ぐ。この発想には実効性があるが、意図せずに構造物全体が倒壊してしまう可能性をはらんでいる。
今回、Jose Adamらは、トカゲの尻尾に破断面があり、攻撃を受けたときに尻尾を切り落とせるようになっていることを模倣して、初期破壊を局限することを意図した建物の設計法について報告している。この建物系は階層型倒壊局限化(hierarchy-based collapse isolation)と呼ばれ、建物の特定の部分にあらかじめ定めた境界に沿って制御された破壊を引き起こし、初期破壊が建物全体に伝播することを阻止して、居住者の救助を容易にする。
Adamらは、この階層型倒壊局限化設計を検証するために、プレキャスト鉄筋コンクリートを用いて、15メートル×12メートル、1階の高さが2.6メートルの2階建ての建物を建設した。この建設過程で、Adamらは、この建物に対して2段階の試験を実施した。第1段階では、建物の1本の隅柱の両側にある柱(合計2本)を除去して、小さな初期破壊をシミュレーションした。その結果、この設計法によって、これまでと同様の構造的な支持能力が備わることが確認された。第2段階では、この隅柱をさらに除去することで、はるかに極端な初期破壊をシミュレーションした。Adamらはこの試験を通じて、階層型倒壊局限化によって、建物全体の倒壊は阻止され、建物の一部が荷重経路に沿って破壊されるだけで済むことが明らかになったと指摘している。
これらの試験で、階層型倒壊局限化が有望であることが示されたが、Adamらは、この設計法をスケールアップして異なるタイプの建物で実施するためには、さらなる試験が必要だと述べている。それでも、階層型倒壊局限化は、建物全体の再建ではなく、建物の倒壊部分の再建で済ませることが可能になり、人命の損失を大幅に減らし、救助活動にも役立つ可能性がある。
doi:10.1038/s41586-024-07268-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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