遺伝学:神経学的機能が正常な黒人米国人の脳に対して祖先系統が与える影響
Nature Neuroscience
2024年5月21日
神経学的機能が正常なアフリカ系米国人と黒人米国人の脳における遺伝子発現を調べる研究で、祖先系統に依存した特徴が明らかになったと報告する論文が、Nature Neuroscienceに掲載される。
ゲノム研究は、脳疾患の既存の治療法を改善して新たな治療法を開発するための有望な手段と考えられているが、これまでのところ、この分野の研究は、主にヨーロッパ系の人々に着目してきた。最近の祖先系統にアフリカ系が含まれている人は、脳疾患に関する大規模研究コホートに占める割合が5%に満たないにもかかわらず、重大なメンタルヘルス上の問題が生じる可能性が白人に比べて20%高い。こうした研究における多様性の欠如は、神経治療薬の開発の妨げとなり、遺伝的リスク予測の精度にも悪影響を及ぼしている。
今回、Kynon Benjaminらは、祖先系統が遺伝子発現にどのような影響を及ぼす可能性があるかを調べるため、神経学的機能が正常な混血のアフリカ系米国人と黒人米国人(合計151人)の死後脳を解析した(Benjaminらは、これらの死後脳が快く提供されたことに感謝の意を表している)。その結果、アフリカ系の祖先系統の程度に応じて発現レベルが異なる遺伝子が、免疫機能と神経学的形質に関連する傾向があることが明らかになった。もっと具体的に言えば、これらの遺伝子は遺伝的祖先系統に特異的な形で、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病の遺伝率に関連していることが判明した。これに対して、黒人米国人において発現が異なっている遺伝子は、神経機能や精神医学的形質(例えば、神経症傾向、うつ病、喫煙開始)に関与するニューロンに関連している可能性が低いことが明らかになった。
Benjaminらは、今回の知見は、脳内の遺伝子発現が遺伝的祖先系統の影響をどのように受けているかと、それに関連して脳疾患リスクに対してどのような意味を持つかを理解する上で役立つだろうと述べている。祖先系統を意識した治療法は、既存の健康格差に対処できる可能性があり、今回の知見は、こうした治療法に関する今後の研究の基盤となる。
doi:10.1038/s41593-024-01636-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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