気候変動:船舶用燃料油の硫黄含有量の上限引き下げが海洋上の大気の温暖化に関連している
Communications Earth & Environment
2024年5月31日
2020年初頭に船舶からの二酸化硫黄排出量が約80%削減されたことが、一部の海域での大幅な大気の温暖化に関連しているかもしれないという結果が、モデルを用いた研究によって得られた。このことを報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。二酸化硫黄排出量の急激な減少は、国際海事機関の2020年の規制(IMO 2020)の施行によるもので、IMO 2020は、船舶用燃料油の硫黄含有量の許容上限を3.5%から0.5%に引き下げて、大気汚染の削減に役立てることを意図している。
大型船舶に使用される燃料油は、他の輸送機器に使用される燃料に比べて硫黄含有量が著しく高い。この燃料油を燃焼させると二酸化硫黄が発生し、大気中の水蒸気と反応して硫酸塩エーロゾルを生成する。硫酸塩エーロゾルは、(1)太陽光を宇宙空間に向けて直接反射する、(2)雲量に影響を与える、という2つの経路によって地球の表面を冷却する。エーロゾルの数を増やすと、形成される水滴の数が増えるが、水滴のサイズが小さくなるため、雲量が増え、雲がもっと白くなって、より多くの太陽光が宇宙空間に反射されるようになる。海洋雲の増白は地球工学活動の一形態で、この効果を得るために海洋上の雲にエーロゾルが意図的に放出される。
今回、Tianle Yuanらは、海洋上の大気中に含まれる硫酸塩エーロゾルの濃度に対するIMO 2020の影響と、それが雲の組成にどのように影響するかを計算した。その結果、大気中のエーロゾル濃度と雲粒数密度の両方が大幅に低下したことが分かった。モデルによって推定されたエーロゾルの減少が最も大きかったのは、北大西洋、カリブ海、南シナ海で、これらは最も交通量の多い航路を持つ海域である。Yuanらは次に、2020年以降の地球のエネルギー収支(太陽から受けるエネルギーと地球から放射されるエネルギーの差)に対するIMO 2020の影響を試算した。計算の結果、IMO 2020の影響は、2020年以降に地球上に保持された熱エネルギーの増加分の80%に相当すると推定された。
Yuanらは、IMO 2020が地球のエネルギー収支に多大な影響を及ぼすことがモデルによって推定されたことで、海洋雲の増白が気候を一時的に寒冷化させる戦略として有効である可能性が示されたという見解を示している。その一方で、Yuanらは、IMO 2020によって意図された二酸化硫黄排出量の削減が、海洋上の大気温度の上昇という意図せぬ結果をもたらす可能性があることは、ジオエンジニアリングの終端ショックの一例であり、地域レベルの気象パターンに悪影響を及ぼすかもしれないと警告している。
doi:10.1038/s43247-024-01442-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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