材料科学:脳を監視するワイヤレスセンサー
Nature
2024年6月6日
ゲルを用いた脳センサーが新たに開発され、動物モデルで検証されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この脳センサーは、pH値、頭蓋内圧、流量、温度などの生体関連データをワイヤレスで監視するために使用できる
埋め込み型センサーは、患者の脳損傷の診断や疾患の予後判定のために頭蓋骨の内部を監視する有望な方法となり得る。しかし、有線センサーは感染症を起こしやすく、患者の体内からデバイスを取り出す手術が複雑化する恐れもある。電子データをワイヤレスで送信する埋め込み型センサーはより有望な選択肢だと考えられるが、交信距離が短いことやセンサーのサイズなど、特有の障害に直面している。
今回、Xiaobing Jiang、Xiaodong Chen、Jianfeng Zangらは、頭蓋下に埋め込んで、脳内データ(流量、pH値、温度など)を監視できるワイヤレスセンサーを開発した。このセンサーは、一辺2ミリメートルの立方体で、従来の穿刺針を使って埋め込むことができる。この立方体は、軟質ヒドロゲル(「音響メタマテリアル」としてパターン化されている)でできており、使用後は体に自然に吸収される。このゲルは、メタマテリアルパターンのために、特定の周波数範囲の超音波に対して高い反射特性を有し、変化に応じて変形するので(pH値、圧力、流量、温度などのさまざまなシグナルに応答するように調整できる)、こうした変形を超音波の反射波形の変化として監視することができる。1カ月の観察期間の後、このメタゲルを生理食塩水に投入すると、約4カ月以内に分解できることも明らかになった。
著者らは、ラットを用いてこのセンサーの検証を行い、頭蓋内圧と温度の測定値が医療機器の測定値と一致しているという結果を得た一方、このセンサーが5週目まで著しい劣化を示さなかったとも述べている。また著者らは、ブタを用いてこのメタゲルを検証し、臨床用プローブと比べて頭蓋内圧の変化を適切に測定できたことを明らかにした。
著者らは、このメタゲルを使ったデバイスによって、従来の手術(ワイヤレスセンサーを埋め込んで、その後除去する手術)が必要でなくなる可能性があり、複数のセンサーを同時に埋め込んで、体のより広い領域にわたってシグナルを監視できる可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s41586-024-07334-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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