生物工学:「RNAブリッジ」を用いた新しい遺伝子編集法
Nature
2024年6月27日
ユーザーが指定したゲノム位置で、長いDNA塩基配列の挿入、逆位、または欠失を行うことができる新しいゲノム編集法について報告する2報の論文が、今週、Natureに掲載される。これらの論文に発表された一段階法は、こうした基本的なDNA再編成を容易に行えるようにするものであり、今後のゲノム編集法の簡略化につながるかもしれない。この方法は、既存の方法よりも正確で効率的な大規模ゲノム編集を実行できる可能性があり、修復過程を必要とする切断を行うのではなく組換えを仲介するという点で、既存の方法を上回る利点があると考えられる。
ゲノム上の長いDNA塩基配列の再編成を目的としたプログラム可能なシステムは、ゲノム設計の分野で有用なツールとなり得る。大規模なゲノム再編成は、通常、リコンビナーゼ(DNAの切断と組換えを触媒する酵素)やトランスポザーゼ(DNAの一部をある部位から別の部位へと移動させる酵素)などの酵素を使って行われる。これらの酵素を特定の部位を標的とするようにプログラムできれば、ゲノム編集における有効なツールになるかもしれない。
第1の論文では、Patrick Hsuらが、ゲノム編集用途向けの再プログラム化可能なリコンビナーゼを作製する方法について報告している。このリコンビナーゼは、RNAによって誘導される。RNAは、リコンビナーゼを標的部位に誘導し、あらかじめ決められた編集を促進するブリッジとして働く。このRNAブリッジには、供与体DNA塩基配列を指定する領域と、ゲノム挿入部位を指定する別の領域が含まれている。両方の領域は独立に再プログラム化でき、多様なDNA塩基配列や挿入部位を認識して結合し、多様なタイプのDNA再編成のため一般的な機構を実現する。このブリッジRNAは、従来のリコンビナーゼ(はるかに複雑なタンパク質-DNA結合部位を利用する)を用いる既存の遺伝子編集法と比べて、容易に再プログラムできる。
また、同時掲載の第2の論文では、西増 弘志(にします・ひろし、東京大学先端科学技術研究センター教授)らが、低温電子顕微鏡を用いてリコンビナーゼの構造を探索し、その作用機序の概要を詳細に示している。
これらの研究は、細菌のゲノム編集を実証したものであるため、この方法が、さまざまな生物種や細胞タイプ(哺乳類細胞を含む)においても実行可能で安全なものであるかどうかを評価するためには、さらなる研究を行う必要がある。同時掲載のNews & Viewsでは、Connor TouとBenjamin Kleinstiverが、この技術は「大規模ゲノム改変の分野にとって刺激的な進歩であり、多くの用途に応用できる可能性に興味がそそられる」と指摘している。
doi:10.1038/s41586-024-07552-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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