神経科学:歩行用のバイオニック義足
Nature Medicine
2024年7月2日
バイオニック義足がヒトの神経系に十分に応答できるようにする神経補綴インターフェースについて報告する論文が、Nature Medicineに掲載される。このインターフェースは、自然な固有受容感覚(下肢の位置や動きを感知する能力)を回復させた主動作筋–拮抗筋対を外科的に構築することで作製されており、下肢を膝下で切断した14人の患者による臨床試験では、歩行の制御が改善した。これらの知見は、神経シグナル伝達の部分的な復元であっても、神経機能を補綴する上で臨床的に意味のある改善を引き起こせる可能性があることを示している。
義足の技術がますます高度になっているにもかかわらず、膝下切断患者の正常な歩行の回復には限界がある。可動域内で下肢を動かす際には、主動作筋と拮抗筋が対となって働き、それが固有受容感覚シグナルを中枢神経系に伝え、ヒトに自分の下肢の位置や動きを自覚させる。しかし、下肢を外科的に切除すると、義足ソケットが苦痛なく使えるよう、切断された筋肉が十分量の軟部組織で覆われるため、本来の筋肉の動態や固有受容感覚が破壊され、結果として、切断部位(断端と呼ばれる)内で神経–筋肉間の構造が大きく損なわれる。
今回、Hugh Herrらは、感知用電極を有する主動作筋–拮抗筋対を外科的に連結して神経補綴ンターフェースを作製した。この動的な筋肉対は断端内に外科的に構築され、下肢切断患者の神経補綴を制御し、固有受容感覚源として働く。このインターフェースによって、患者からの神経制御の情報を外部の義足へと伝達し、さらに義足の位置や動きの固有受容感覚を患者に戻すことができるようになる。
次にHerrらは、このバイオニック義足の有効性を、片足を膝下で切断した患者14人(そのうち7人がこの神経補綴インターフェースを装着)を対象とした臨床試験で検証した。その結果、神経補綴インターフェースを使用していない膝下切除患者の歩行速度に比べて、装着した患者の歩行速度は41%速く、下肢を切断していない人と同等な速度での歩行が可能になった。さらに、坂道や階段、障害物のある道など、実社会環境での歩行動作が改善した。
Herrらは、これらの知見が、下肢の切断や運動麻痺などの場合に移動運動の神経制御を回復させようとする、今後の機能再建技術に役立つ情報となる可能性があると述べている。
doi:10.1038/s41591-024-02994-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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