Research Press Release

天文学:ディディモスとディモルフォスの特徴を探る

Nature Communications

2024年7月31日

NASAの二重小惑星進路変更試験(DART;Double Asteroid Redirection Test)ミッションの観測に基づく小惑星ディディモス(Didymos)連星小惑星系に関する洞察が、5つの論文にわたってNature Communicationsに掲載される。今回の発見は、これらの惑星体の物理的および地質学的特性やその形成に関する理解を深め、将来の探査ミッションや惑星防衛戦略に対して潜在的な影響を与えるものである。

連星小惑星系(主小惑星とその周囲を回る衛星によって構成される)は、系を構成する要素の正確な物理的特徴を明らかにすることができ、また、小天体系の形成と進化の過程に関する洞察を与えることができるため、特に興味深い。ディディモスとその衛星であるディモルフォス(Dimorphos)は地球に近く、また、地球近傍の宇宙空間では一般的なタイプの小惑星であることから、特に貴重な研究対象であり、近接観測のユニークな機会を提供している。NASAのDARTミッションによって収集されたデータを用いて、5つの研究グループがディディモス連星小惑星系の異なる物理的特性を調査した。

Olivier Barnouinらは、NASAのDARTミッションのデータと、イタリア宇宙機関(Italian Space Agency;ASI)の超小型衛星Light Italian Cube sat for Imaging of Asteroids(LICIACube)ミッションの画像を用いて、ディディモスとディモルフォスの地質学的特徴と物理的特性を分析した。その結果、標高の高いところでは、ディディモスの表面は荒く、大きな巨礫(長さ10–160メートル)やクレーターがあること、標高の低いところでは、ディディモスの表面は滑らかで、大きな巨礫やクレーターが少ないことがわかった。それに比べ、ディモルフォスには大小の巨礫が混在し、いくつかの亀裂や断層があり、クレーターは少ない。著者らは、ディモルフォスはディディモスによって流された(重力の影響を受けて集まった)物質から形成された可能性があり、両者とも表面の凝集性が低いことから、観測されたクレーターと合わせて、ディディモスの表面年齢は、ディモルフォスの40–130倍であることを示唆していると報告している。著者らは、ディディモスとディモルフォスの年齢は、それぞれ約1250万年と30万年未満であると推定している。

Naomi Murdochらは、小惑星表面の巨礫の痕跡を分析し、ディディモスの表面の支持力(加えられた荷重を支える表面の能力)は、地球の乾燥した砂や月の土壌よりもかなり低いことを突き止めた。別の論文で、Maurizio Pajolaらは、2つの小惑星表面の巨礫の大きさ、形、分布パターンを分析した。その結果、ディモルフォスでは、巨礫は一度に形成されたのではなく、段階的に形成されたことを示唆する大きさの分布パターンを示し、ディディモスから直接受け継がれたことがわかった。このことは、連星小惑星系は主小惑星からの物質放出によって形成されるという仮説をさらに支持するものである。

Alice Lucchettiらは、熱疲労によってディモルフォス表面の巨礫が急速に破壊されることを発見した。これは、この種の小惑星(S型小惑星)において、熱疲労によって巨礫が急速に(約10万年かけて)破壊されることを初めて観測したことになるかもしれない。最後に、Colas Robinらは、ディモルフォス上の34個の表面巨礫(大きさは1.67–6.64メートル)の形態を、イトカワ、リュウグウ、ベンヌを含む他のいくつかのラブルパイル(がれきが積み重なって構成された)小惑星の表面のものと比較した。巨礫の形態の類似性に基づき、また、実験室での実験との比較から、著者らの発見はこれらのタイプの小惑星に共通の形成および進化メカニズムを示唆している。 

これらの発見は、DARTミッションがディモルフォスと衝突する直前のディディモス星系を包括的な概要を提供する。この発見は、今後予定されている欧州宇宙機関(ESA;European Space Agency)のヘラ(Hera)ミッションの基礎となるもので、より高解像度のデータを提供し、ディディモス星系とDARTの衝突の余波をより包括的に調べられるはずである。

  1. Barnouin, O., Ballouz, RL., Marchi, S. et al. The geology and evolution of the Near-Earth binary asteroid system (65803) Didymos. Nat Commun 15, 6202 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-50146-x
  2. Pajola, M., Tusberti, F., Lucchetti, A. et al. Evidence for multi-fragmentation and mass shedding of boulders on rubble-pile binary asteroid system (65803) Didymos. Nat Commun 15, 6205 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-50148-9
     
  3. Lucchetti, A., Cambioni, S., Nakano, R. et al. Fast boulder fracturing by thermal fatigue detected on stony asteroids. Nat Commun 15, 6206 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-50145-y
  4. Bigot, J., Lombardo, P., Murdoch, N. et al. The bearing capacity of asteroid (65803) Didymos estimated from boulder tracks. Nat Commun 15, 6204 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-50149-8
  5. Robin, C.Q., Duchene, A., Murdoch, N. et al. Mechanical properties of rubble pile asteroids (Dimorphos, Itokawa, Ryugu, and Bennu) through surface boulder morphological analysis. Nat Commun 15, 6203 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-50147-w

doi:10.1038/s41467-024-50146-x

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