がん:腫瘍アトラスががんの進化を明らかにする
Nature
2024年10月31日
腫瘍の生物学に関する新たな洞察をもたらす、乳房、結腸、および膵臓など、腫瘍とその周辺環境の地図が、ヒト腫瘍アトラスネットワーク(HTAN:Human Tumor Atlas Network)の論文コレクションで発表される。ネイチャーポートフォリオのジャーナルで出版されるアトラスは、多種多様な腫瘍の種類を網羅しており、腫瘍の発生と進化の分析を可能にする。
HTANは、2018年に設立され、ヒトのがんが進化する過程における細胞、構造、および分子の特徴を3次元的にアトラス化することを目的としている。これらのアトラスは、がんの発生、進行、および治療抵抗性を引き起こす根本的な生物学的プロセスを特定するのに役立つ。
最新の論文コレクションには、2,000人近い患者から採取した20種類以上の腫瘍由来部位の分析結果が含まれており、腫瘍の構造と細胞間の相互作用に関する包括的な分析を提供している。研究対象となった腫瘍には、乳がん、結腸がん、膵臓がん、腎臓がん、および子宮がんなどがある。いくつかの新たな発見もあった。例えば、複数の細胞が集合的に大腸(結腸・直腸)腫瘍を発生させるというモデルを裏付ける証拠が示され、このようながんは結腸の内側にある単一の細胞から発生するというこれまでの説を覆した。また、腫瘍が進化し、治療への耐性を獲得する能力を促進する転移性の微小環境の役割についても新たな知見が得られた。この研究は、これらのアトラスを詳細に分析するための新たなツールや手法の開発にもつながり、がんの研究をさらに深める今後の取り組みに役立つだろう。
Mo, CK., Liu, J., Chen, S. et al. Tumour evolution and microenvironment interactions in 2D and 3D space. Nature 634, 1178–1186 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08087-4
Islam, M., Yang, Y., Simmons, A.J. et al. Temporal recording of mammalian development and precancer. Nature 634, 1187–1195 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07954-4
Sadien, I.D., Adler, S., Mehmed, S. et al. Polyclonality overcomes fitness barriers in Apc-driven tumorigenesis. Nature 634, 1196–1203 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08053-0
Lu, Z., Mo, S., Xie, D. et al. Polyclonal-to-monoclonal transition in colorectal precancerous evolution. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08133-1
Klughammer, J., Abravanel, D.L., Segerstolpe, Å. et al. A multi-modal single-cell and spatial expression map of metastatic breast cancer biopsies across clinicopathological features. Nat Med (2024). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03215-z
doi:10.1038/s41586-024-08087-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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