神経科学:標的を絞った脳深部刺激が脊髄損傷後の歩行を改善する
Nature Medicine
2024年12月3日
外側視床下部と呼ばれる部位への脳深部刺激が、脊髄損傷を負った人間や齧歯類の歩行能力を改善し、回復を促進することを報告する論文が、Nature Medicine に掲載される。この発見は、脊髄損傷患者に対する将来の治療法として、脳深部刺激を用いて特定の脳領域を標的にすることの可能性を明らかにしている。
脊髄損傷は、脳と脊髄間のコミュニケーション経路を遮断することが知られており、しばしば麻痺や運動機能障害を引き起こす。脳のいくつかの領域が歩行の制御に関与しているが、脊髄損傷によってどの領域が最も影響を受けるのか、また、他の脳領域がどのように回復をサポートし、歩行の回復を助けるのかは不明である。
Gregoire CourtineとJocelyne Blochらは、3Dイメージング技術を用いて、回復期にある脊髄損傷マウスの脳活動をマッピングし、回復期における歩行に関与する脳領域を特定した。著者らは、覚醒、摂食、および動機付けを司る領域である外側視床下部の神経細胞群が、回復に重要な役割を果たしていることを突き止め、治療介入の新たなターゲットとなり得る可能性を示した。CourtineとBlochらは、外側視床下部を標的として脳深部刺激を行い、さまざまなタイプの脊髄損傷を負ったマウスとラットの両方において、歩行能力の即時の改善を観察した。
次に、研究チームは慢性不完全脊髄損傷を患う2人の患者を対象に、外側視床下部への脳深部刺激が歩行能力の向上につながるかどうかを検証した。歩行補助器具を使用していたものの、歩行に問題を抱えていた両患者は、10メートル6分間の歩行テストで歩行能力の向上が見られ、下半身の動きも改善した。リハビリテーションと併用したところ、脳深部刺激を停止しても回復が持続した。
著者らは、安全性を評価するにはより多くの患者を対象とした大規模な研究が必要であるものの、脳深部刺激により外側視床下部のニューロンを活性化させることは、重度の脊髄損傷患者の一部に運動機能の回復をもたらすかもしれないと示唆している。
- Article
- Published: 02 December 2024
Cho, N., Squair, J.W., Aureli, V. et al. Hypothalamic deep brain stimulation augments walking after spinal cord injury. Nat Med (2024). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03306-x
doi:10.1038/s41591-024-03306-x
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