生態学:深海の生態系を調査する
Nature Communications
2025年2月19日
海面下7.5キロメートルの堆積物から検出された生物の痕跡は、深海に生息する生物が自らの環境をいかにして作り出しているかを明らかにしている。Nature Communications に掲載される、太平洋の日本海溝の堆積物コアの分析は、これらの深海生物の掘削や採餌活動の証拠を明らかにしている。
超深海帯(Hadal Zone)は、水深6キロメートル以上の最も深い部分に位置し、細長い孤立した溝から構成される。このような環境における生態系についてはほとんど知られておらず、さらに、生物攪拌(bioturbation;生物による海底堆積物の再加工)についてはほとんど知られていない。生物攪拌は、栄養素の循環や生態系の機能に影響を与える重要なプロセスである。さらに、生物撹拌を行う生物が残した痕跡、例えば巣穴などは、生態系における生物の行動記録として役立つ可能性がある。
Jussi Hovikoskiらは、日本海溝の完新世堆積物(Japan Trench of Holocene sediments)から、水深7.5キロメートル地点の堆積物コア20個を分析した。堆積物の構造を調べるためにX線スキャンを使用し、堆積物自体の地球化学データおよび粒径データと組み合わせた。これらのコアから、著者らは、堆積物が重力流によって堆積されることを示すことができた。すなわち、堆積物やその他の物質が海溝縁から海底に堆積される現象である。著者らは、これらの堆積物が最初にどのようにして生物に植民され、生物によって撹拌されたかを示している。生物は、栄養分が豊富で酸素が供給された海底堆積物を活用する。初期の植民者には、ナマコ類(一般的にナマコとして知られている)が含まれる可能性がある。著者らは、有機物が分解されると、海底堆積物は酸素不足の状態になることを示唆している。この植民の最終段階は、微生物群集を利用する無脊椎動物の種の存在によって特徴づけられる。
深海堆積物に残されたこれらの痕跡を記録し、記述することは、あまり理解されていない生態系を解明する上で重要であると、著者らは結論づけている。
- Article
- Open access
- Published: 18 February 2025
Hovikoski, J., Virtasalo, J.J., Wetzel, A. et al. Bioturbation in the hadal zone. Nat Commun 16, 1401 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-56627-x
doi:10.1038/s41467-025-56627-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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