健康:世界における乳がんによる死亡率と発生率の推定
Nature Medicine
2025年2月25日
現在、世界では20人に1人の女性が乳がんと診断されており、生涯のうちに70人に1人の女性がこの病気で死亡する可能性があることを報告する論文が、Nature Medicine に掲載される。著者らは、特に人間開発指数(HDI:Human Development Index)の低い国々において、早急な対応が必要であると主張している。人間開発指数とは、平均寿命、教育水準、および生活水準などの要因を考慮して、その国の生活の質を総合的に評価する指標である。また、早期診断と治療への持続的な投資と改善も、世界的に増大する乳がん生存率の不公平性を減らすために必要である。
乳がんは、最も多く診断されるがんであり、女性のがん関連死の主な原因となっている。2021年、世界保健機関(WHO:World Health Organisation)は、各国が乳がん死亡率の年間平均2.5%削減という目標を達成することを目指し、世界乳がんイニシアチブ(GBCI:Global Breast Cancer Initiative)を立ち上げた。しかし、乳がん対策の取り組みの成果を把握するためには、世界および地域レベルにおける乳がんの負担の現状と予測推定値が必要である。
Miranda Fidler-Benaoudiaらは、185カ国の乳がんの発生率と死亡率のデータを分析し、2022年には世界全体で乳がんの新規症例が230万件、死亡者数が67万人であることを明らかにした。しかし、この数値は地域によってばらつきがあり、HDIスコアが低い地域では、乳がんと診断された人の死亡率が極めて高いことが分かった。例えば、生涯に乳がんと診断されるリスクが最も高いのはフランス(9人に1人)と北米(10人に1人)であることが判明しているが、乳がんで死亡する生涯リスクが最も高いのはフィジー(24人に1人)とアフリカ(47人に1人)である。
また、著者らは46か国における10年間の乳がん死亡率についても調査した。死亡率は30カ国で減少しているように見えるが、死亡率を毎年2.5%削減するというWHO GBCIの目標を達成しているのは、マルタ、デンマーク、ベルギー、スイス、リトアニア、オランダ、およびスロベニアの7カ国のみであることが分かった。現在の傾向を踏まえると、2050年までに乳がんの発生率と死亡率は、それぞれ38%と68%増加すると予測されており、低HDI国に不均衡な影響を与えることになる。これは、2050年には新たに320万人が罹患し、110万人が死亡すると推定されることを意味する。
著者らは、これらの推定値はデータの質と入手可能性によって制限されると指摘している。特に、HDIスコアが低い国々では、人口カバー率が不完全であったり、確立されたがん登録システムが存在しなかったりする可能性がある。また、使用されたデータセットが異なるため、将来予測の推定値も一部の国々に限定されている。
- Article
- Published: 24 February 2025
Kim, J., Harper, A., McCormack, V. et al. Global patterns and trends in breast cancer incidence and mortality across 185 countries. Nat Med (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03502-3
doi:10.1038/s41591-025-03502-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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