オーストラリア・ブリスベーンでの気温上昇の影響
Nature Climate Change
2012年1月16日
気温は、健康の重要な決定因子であり、研究者は、気温上昇による気温と健康の関係の変化を解明することに強い意欲を示している。このほど、将来的な気候変動で気温が摂氏2度以上上昇し、高温への適応がなされなければ、気温による「損失生存年数」(総人口について死亡が早まることによって失われた年数)が増加する可能性があることを示唆する研究が明らかになった。この予測は、気候変動に適応した公衆衛生政策の必要性を明確に指摘している。研究成果を報告する論文は、Nature Climate Change(電子版)に掲載される。 気候と健康に関する研究の大部分は、死亡リスク一般を調べているが、損失生存年数の方が若年死を定量化する尺度として有益だとする考え方が示されている。損失生存年数では、異常気温の有無にかかわらず、余命が数年かもしれず相対的に脆弱な高齢者の死より若年者の死に対する重みづけが大きい。今回、C Huangたちは、損失生存年数がオーストラリア・ブリスベーンの季節と気温に関連しているとする推論を明らかにした。今回の研究では、1996~2004年のブリスベーンの人口データを調べて、その数値を「損失生存年数」に変換した。Huangたちの推算によれば、2050年までに気温が摂氏1度上昇すると、気温による損失生存年数が男女合わせて98年減少すると考えられ、こうした減少の原因は、高温による損失生存年数の増加が低温による損失生存年数の減少によって相殺されていることだとされる。そして、Huangたちは、IPCCが設定した国際目標のように、2050年までに気温が摂氏2度上昇すると、気温による損失生存年数が381年となると推定し、その理由として、高温による死者数の増加が低温による死者数の減少によって相殺できないレベルに達することを挙げている。さらに、Huangたちは、摂氏4度の気温上昇についても調べ、その影響が相当に大きなものとなると推定し、2050年の気温による損失生存年数が、2000年よりも正味で3,242年も増加すると推測している。 Huangたちは、たとえ亜熱帯都市であっても、異常高温と異常低温の両方が公衆衛生にとって重要な要素だと結論づけている。その一方で、今回の研究が単一の場所で実施されたために、研究結果の一般化に限界がある点に注意を要するとし、研究対象となった集団内に存在する脆弱性が十分に考慮されていなかった点も指摘している。それでも、今回の研究は、異常気温が健康に及ぼす影響を緩和するための早期警報システムと介入戦略を策定する政策決定者にとって重要な意味をもちうる。
doi:10.1038/nclimate1369
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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