Research Press Release
Rasの再分布
Nature Chemical Biology
2010年4月26日
がん細胞で変異が多く認められるシグナル伝達タンパク質Rasの位置および活性を調節する新たな酵素が、小分子阻害剤で洗い出された。Nature Chemical Biology(電子版)に発表されるその研究成果は、Rasシグナル伝達経路に関して新たに重要な洞察をもたらし、新しいがん治療戦略を示唆する。
細胞内でのRasの位置は、Rasタンパク質中のシステインに対する脂肪酸「パルミチン酸」の可逆的着脱によって調節されていることが知られている。その位置の動的な制御は、Rasのシグナル伝達活性を調節している。これまで、Rasの脱パルミトイル化(パルミチン酸の除去)を行う酵素は知られていなかった。
APT1の強力で特異的な阻害剤を開発することにより、H Waldmann、P Bastiaensたちは、この酵素が細胞内のRasを脱パルミトイル化することを示すことができた。APT1を阻害すると、Rasは広く再分布し、Rasのシグナル伝達が抑制される。研究チームはさらに、恒常的に活性を示す発がん性の変異Rasを発現する細胞では、APT1の阻害が、不完全ながら、がん性から非がん性の表現型への復帰をもたらすことを発見した。
doi:10.1038/nchembio.362
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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