【疫学】インフルエンザの感染拡大過程
Nature Communications
2013年6月5日
家庭内でのA型インフルエンザの感染拡大の半数以上は、空気中に長時間滞留する微小な呼吸飛沫が原因であることが明らかになった。これまで、A型インフルエンザの伝播を減らす方法は、患者との接触と大きな呼吸飛沫の伝播を減らすことが中心だったが、今回の研究で得られた知見は、新たな方法の策定にとって重要な意味を持つものといえる。研究の詳細を報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
インフルエンザA型ウイルスは、感染者が咳やくしゃみをするときに排出される呼吸飛沫への曝露を介して、感染を広げる。疫学上は、排出源から1~2メートル以内で地上に堆積する大きな飛沫とそれよりも長時間にわたって空中に滞留する直径5マイクロメートル未満の微小な感染性飛沫に分類され、後者をエアロゾルという。今回、Benjamin Cowlingたちは、インフルエンザの臨床症状が、伝播様式によって異なっており、エアロゾル状のインフルエンザA型ウイルスが、高熱と咳を伴う「典型的なインフルエンザに似た疾患」を引き起こす傾向が強く、インフルエンザA型ウイルスの大きな分子からは高熱症状しか起こらないという仮説を一歩進めた。つまり、この仮説に基づいた数理モデルを作製して、家庭内でのインフルエンザA型ウイルスのそれぞれの伝播様式の寄与度を推定した。Cowlingたちは、香港とバンコクに在住する家族を対象とした手洗いとマスクの着用に関する2つの無作為化試験によって得られたデータを利用して、このモデルの検証を行ったところ、インフルエンザA型ウイルスの伝播防止のために使用された手と顔に関連した措置は、家庭内での接触による全般的な感染リスクに有意な変化を生み出さなかった。この結果は、共同生活者の間でのインフルエンザA型ウイルスの感染拡大の主な様式がエアロゾル感染である可能性を示唆している。
今回、エアロゾル感染の重要性が判明したことで、家庭内でのインフルエンザの感染拡大を防止するための防御戦略を見直す必要のあることが示唆されている。
doi:10.1038/ncomms2922
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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