鳥インフルエンザウイルスの機能獲得研究にもう一段のバイオセーフティー対策
Nature Biotechnology
2013年8月12日
実験室での鳥インフルエンザウイルス研究の安全性を高める新たな手法が考案された。これにより、「機能獲得型」インフルエンザ研究のバイオセーフティーがさらに強化され、インフルエンザウイルスの実験室株と接触した者が鳥インフルエンザに感染するリスクが減ることが期待される。
一部の鳥インフルエンザウイルス株の場合、それに感染している鳥に直接接触したヒトが鳥インフルエンザに感染することがあるが、今のところ、こうしたウイルス株は、ヒトからヒトへ効率的に感染できない。ヒトインフルエンザを調べる研究で動物モデルとして用いられるフェレットを用いた最近の研究では、特定の鳥インフルエンザウイルス株が、いくつかの変異を経て、フェレット間での空気感染能をある程度「獲得」する可能性が示された。こうした「機能獲得型」インフルエンザ研究は、鳥インフルエンザの大流行を防ぐための世界規模での取り組みに役立てようとして行われるのだが、インフルエンザウイルスの実験室株が故意又は偶然に放出されることへの懸念が生じている。
こうした「機能獲得型」インフルエンザ研究は、すでに特定の安全性ガイドラインに基づいて実施されているが、今回、Benjamin tenOeverたちは、新たな方法を考案し、これによって実験室内での安全性がさらに高まり、実験室外の安全性も確保できるのではないかと考えている。マイクロRNAは、直鎖状に並んだ核酸で、標的とされる特定の配列を含む遺伝子の発現を抑制することができる。マイクロRNAの発現は生物種によって異なっている。tenOeverたちは、マイクロRNAの標的部位を発現するインフルエンザウイルス株が、そのマイクロRNAを発現する細胞をもつ生物に感染すると、インフルエンザウイルスの発現と複製が停止すると考えた。そして、ヒトとマウスの肺で発現し、フェレットの肺では発現しないマイクロRNAを同定し、その後、そのマイクロRNAの標的配列をインフルエンザウイルスのゲノムに挿入した。その結果得られたインフルエンザウイルス株を使った実験が行われ、フェレットが、このウイルス株にさらされると、フェレットからフェレットへの正常な感染があったが、このウイルス株に感染したマウスには、インフルエンザ発症を示す証拠がなかった。
tenOeverの研究チームは、このウイルス株がヒトにおいて病原性がないのかどうかはわかっていない点を指摘し、注意を喚起している。しかし、この方法は、実験室内での病原体の生物学的封じ込めにすでに用いられている物理的障壁を補強する新たな分子的方法となる可能性を秘めている。
doi:10.1038/nbt.2666
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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