【神経科学】元プロアメフト選手の脳に問題が見つかる
Scientific Reports
2013年10月17日
引退した全米プロフットボールリーグ(NFL)の選手と健常者に認知課題を行わせて得られた成績データと脳の活動パターンの測定結果をそれぞれ比較した結果が明らかになった。元NFL選手は実行機能不全(組織化と制御に関与するさまざまな認知過程の障害)を起こす確率が高いという仮説があるが、今回の研究結果は、この仮説を裏付けている。
プロのアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツ(相手選手との身体接触を伴うスポーツ)の選手に軽度外傷性脳損傷(mTBI)と長期的神経障害が多く発生していることが最近の研究で明確に示されている。しかし、生きた被験者に反復的に生じるmTBIの長期的影響を確実に検出し、監視することは難しい課題となっていた。
今回、Adam Hampshireたちは、引退したNFL選手13人と健常者60人を対象とした研究を行い、被験者は、3本のチューブに入ったカラーボールをできるだけ少ない手数で入れ替えるという実行機能課題を行った。Hampshireたちは、この課題を行った被験者の成績を分析し、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、参加者の脳の活動パターンを評価した。その結果、元NFL選手の成績は、健常者の成績をさほど下回ってはいなかったが、fMRI検査で前頭葉の過剰活性化と過小接続性が明らかに見られた。そして、この機能異常は、現役だった頃の選手が試合中に頭部にけがをして途中交代した回数と相関していた。この結果は、元NFL選手が特定の実行機能不全を起こしやすい可能性を示唆しており、その根底にあると考えられる神経の異常を解明するうえでfMRIがどのように役立つのかを明らかにしている。
なお、Hampshireたちは、mTBIが神経に及ぼす長期的影響をさらに調べるためには大規模な縦断的神経画像研究が必要な点に注意すべきだと指摘している。元NFL選手は、厳選された選手の集団で、研究のために動員することが難しく、そのことは、今回の研究での被験者集団の大きさにも反映されている。また、元NFL選手の集団と対照群には、このほかにも体格などいくつかのちがいがあった。ただし、体重、頭の大きさと脳の大きさは、選手が試合中に頭部のけがで交代した回数とは関係なかった。それに、元NFL選手の集団と対照群の間で、脳の大きさのちがいはなかった。
doi:10.1038/srep02972
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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