【神経科学】患者名H.M.の脳の検死
Nature Communications
2014年1月29日
患者名H.M.の脳症例は、脳の機能と記憶との結び付きに関連する理論の構築に重要な役割を果たした。今回、この患者名H.M.の脳の死後解析が行われ、記憶における海馬の役割に関する我々の理解に影響を及ぼす可能性のある新たな詳細な知見が得られた。患者名H.M.の脳の場合、1950年代に後方海馬が摘出されたと思われていたが、今回の解析では、そのかなりの部分が実際には無傷であったことが判明した。その研究の詳細を報告する論文が掲載される。
Henry Molaison(患者名H.M.)は、記憶に関連する最も著名な神経科学の症例研究である。彼は、10歳の時に原因不明の小発作を起こすようになり、15歳になると大発作に進行した。抗けいれん薬にあまり効果がなかったことから、27歳の時(1953年)に脳神経外科手術が行われ、脳内の海馬の一部が摘出された。この手術の後、発作の頻度が低下したが、Molaisonは情報を固定して、長期記憶に保存できなくなった。1990年代に行われた脳の画像検査では、学習と記憶の処理に密接に関わる脳領域である海馬の大部分が摘出されていたことが確認された。ただし、当時の画像検査技術は、病変部の境界を正確に描き出せるほど分解能が高くなかった。
Molaisonが2008年に死亡した後、Jacopo Anneseたちが、Molaisonの脳切片を作製し、病変部の3次元モデルを作製した。その結果、海馬の相当な部分が実際には残っていたことが明らかになった。これは、Molaisonの生前に行われた脳画像検査とは対照的な結果だった。今回の解析結果は、海馬の特定の領域が記憶において果たす役割の再評価が必要となる可能性を示している。
doi:10.1038/ncomms4122
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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