自発的な修復
Nature Neuroscience
2010年11月15日
重篤な脊髄損傷後の麻痺は永久に残るが、軽度の損傷患者では実質的な回復を得ることがよくある。Nature Neuroscience(電子版)に報告されたサルによる新たな研究で、回復が起こるのは損傷した元の結合が再生するのではなく、新しい神経線維が多数伸びてくるためであると示唆されている。この発見により霊長類モデルでのさらなる研究への道が開かれ、損傷後の神経の発芽伸長機構が解明され、最終的にヒト患者の回復改善に活用されるかもしれない。
M Tuszynskiらは、成体アカゲザルの右側の皮質脊髄路(CST;脊髄内の神経線維束で、霊長類では右半身の随意運動に極めて重要)を切断すると、右手足の機能が損傷後4〜8週で回復し始めるのを認めた。解剖したところ、損傷していない左側CSTから新しい神経線維が多数伸長し、脊髄正中線を越えて右側脊髄の運動ニューロンと新しい結合を作っていることがわかった。これにより損傷で神経系と切り離されてしまった筋線維が活性化するようになった。
脊髄損傷の研究モデルとしてはげっ歯類がよく選ばれるが、この研究は、サルとげっ歯類とでは損傷後応答に重要な違いがあることを明らかにしている。傷ついたCSTを対側のCSTが「修復」するような現象は、ラットやマウスにはみられない。Tuszynskiらは、損傷後の神経発芽を可能にする機構を解明し、その知見を最終的にヒト患者の回復改善に活用することを期待するためにも、霊長類モデルをさらに研究する必要があるだろうと提案している。
doi:10.1038/nn.2691
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