【医学研究】生物工学的に作製した食道で移植治療に一歩前進
Nature Communications
2014年4月16日
このほど組織工学的に作製した食道が、機械的ストレスに対する抵抗性を有し、ラットに移植しても正常に機能することが明らかになった。この研究成果は、臨床における生物工学的に作製した食道の移植の成功に向けた重要な一歩前進となる可能性がある。その詳細を報告する論文が、今週掲載される。
毎年、多数の患者が、食道がん、外傷性疾患や消化管に影響する先天性欠損症の治療のために、食道の一部を摘出する外科手術を受けている。消化機能を外科的に回復させる方法には、さまざまなものがあるが、ほとんどの外科手術は複雑で、重大な合併症、体重減少と死につながる危険をはらんでいる。これに対して、生物工学的に作製した組織を用いて、損傷部位を置き換える方法は、原理的には、リスクの高い外科手術を避けることができ、すぐに利用でき、副作用が少なく、長期の機能的転帰も向上する。
今回、Paolo Macchiariniたちは、その実現に向けた第一歩として、ラットモデルの食道の一部から細胞を取り除き、食道の機械的特性と生理活性を保持し、生体適合性を有する骨格を作り出した。そして、この骨格にラットの骨髄間葉系間質細胞を再び播種した。次に、元の食道から全長の20%に相当する部分を摘出し、そこに、この工学的に作製・再播種された外植片を移植した。
この移植手術後の2週間、Macchiariniたちは、手術を行ったラットを継続観察した。このラットは、当初動かなかったものの、その後は急速な回復を見せ、有意な痛みの徴候、健康障害、臓器の拒絶反応や有害な免疫応答は生じなかった。また、このラットの移植片には、いくつかの血管と筋繊維の新生が見られた。手術後に液体とやわらかい食餌を与えたラットは、対照群と比較して、著しい体重の増加があった。
Macchiariniたちは、今回の研究では、食道の全長のわずか20%の移植しか行っていないため臨床的に有用でない可能性があり、これ以上に長期間にわたる移植片の機能性に関する実証が行われていないことを注意点として指摘している。しかし、今回発表された方法では、ラットより小型の動物モデルにおける短期的な利用可能性が有望視されているため、食道全体の移植手術と長期的フォローアップが可能と考えられるラットより大型の動物モデルを用いた評価へ道を開くものといえる。
doi:10.1038/ncomms4562
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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