Research Press Release
免疫系の修飾因子で恐れを処理
Nature Neuroscience
2014年5月26日
寛解再発型多発性硬化症の治療に現在用いられている薬剤を使用すると、マウスでは記憶の消去(古い記憶が薄れていくこと)が促進される。今週のオンライン版に掲載されるこの報告は、同じことがヒトでも確かめられれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの不安障害を処理するのにこの薬剤が使える可能性を示唆している。
フィンゴリモドという薬は、不活性型で投与され、体内でスフィンゴシンキナーゼという酵素によって活性型に変換される低分子である。いったん活性化すると免疫系の抑制を補助し、そのため多発性硬化症のうちある種の症例に処方される。
Sarah Spiegelたちは、フィンゴリモドの活性型には免疫系とは無関係の第2の分子機能があると報告している。この薬剤は、遺伝子発現を広範に調節する重要なエピジェネティック酵素であるヒストン脱アセチル酵素(デアセチラーゼ)を阻害する。マウスに経口投与すると、フィンゴリモドは血液脳関門を通り抜ける。Spiegelたちは、フィンゴリモドを与えられたマウスは以前経験した恐ろしい記憶をより速く失うと報告している。この作用はこの薬剤の活性型に特有であり、そのため活性化に働く酵素、スフィンゴシンキナーゼを欠損する変異マウスは記憶の変化を示さない。
doi:10.1038/nn.3728
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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