【気候変動】モントリオール議定書によって何を回避できたのか
Nature Communications
2015年5月27日
モントリオール議定書(1987年)によってオゾン層保護の大きな成果が達成されていたことを明らかにする研究論文が、今週掲載される。この議定書がなければ、オゾン層の破壊が現在よりかなり大規模なものとなり、地表面紫外線量と気候の点でも恩恵があったとされる。
モントリオール議定書が発効して、塩素や臭素を含むオゾン破壊物質の使用が規制された後、こうしたオゾン破壊物質の大気中濃度は1993年にピークに達し、その後は低下した。今回、Martyn Chipperfieldたちは、最先端の3次元大気化学モデルを用い、モントリオール議定書が発効しなかった場合のオゾン層の動向を調べた。Chipperfieldたちは、南極のオゾンホールが2013年までに今より40%大きくなったという見方を示している。Chipperfieldたちのモデルからは、オゾン破壊物質が増え続け、南極以外でも成層圏のオゾン消失が現在よりかなり深刻な状態になっていただろうことも示唆されている。また、2011年の気象条件下では、北極で非常に大きなオゾンホールが生じたと考えられるほか、より小規模なオゾンホールの発生が日常的に起こるようになり、地表に達する紫外線量が増加していただろうという。
紫外線による健康被害を受けやすい人々が多く居住する中緯度地域では、地表面紫外線量の変化率は重要な意味を持っている。Chipperfieldたちのモデルによれば、モントリオール議定書がなければ、オーストラリアとニュージーランドの最も人口密度の高い地域(現在、皮膚がんによる死亡率が最も高い)の地表面紫外線量は現在より8~12%多くなっていたと推定され、英国を含むヨーロッパ北部では、2013年までに14%以上多くなっていたと推定されている。健康への影響を定量化することは難しいが、大気中への塩素と臭素の放出量が持続的に減少すれば、最終的には成層圏のオゾンが増加して皮膚がんの罹患率低下と大気の温度構造保持につながり、また大循環と気候にも重要な長期的影響を及ぼすと考えられる。
doi:10.1038/ncomms8233
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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