地球温暖化を放置すれば過去300万年間になかったような海洋生態系の変化が起こるかもしれない
Nature Climate Change
2015年6月2日
2040年頃に排出量が安定する温室効果ガス排出シナリオの条件下で想定される中程度の温暖化が起こった場合には、21世紀末までに広範な海域で海洋の生物多様性が大きく再構成される可能性があることを示唆する論文が、今週のオンライン版に掲載される。生物多様性の再構成とは、局所的な種の絶滅、種の侵入などのことであり、再構成の規模は過去50年間の観察結果の3倍に達する可能性がある。
今回、Gregory Beaugrandたちは、3種類の温室効果ガス排出と関連する温暖化のシナリオの条件下における21世紀末までの海洋の生物多様性のパターンをモデル化した。そして、それぞれのシナリオに対応する3種類の将来の生物多様性のパターンを1960~2013年の期間と、地球史上で今とは気候が大きく異なっていた最終氷期のピークであった最終氷期最盛期(LGM、約26,500~20,000年前)、約300万年前までの比較的温暖であった中期鮮新世に観察された生物多様性のパターンを比較した。
温室効果ガス排出量の増加が2100年まで続く場合には、激しい地球温暖化が起こり、海洋生態系に大きな影響が及ぶとBeaugrandたちは予測している。全球の海洋の50~70%で生物多様性が変化し、その規模がLGMや中期鮮新世と現代の間に生じた変化と同等かそれより大きくなるというのだ。これに対して、温室効果ガス排出量がピークに達し、その後の5年間に減少するというシナリオで、地球温暖化が比較的小規模にとどまる場合には、生物学的変化の程度はかなり小さくなり、1960年代以降に観察された年々変動とさほど変わらなくなることも今回の研究で示唆されている。それでも生物多様性の再構成は生態系の機能に影響が及ぼす可能性が高いため、気候変動が生物多様性パターンに及ぼす影響の解明を進める必要性が強く示されている。
doi:10.1038/nclimate2650
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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