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QTLマッピングにとっての追い風?

Nature Reviews Genetics

2002年4月1日

酵母菌は他の真核生物より小さくて単純かもしれないが、だからと言って遺伝的性質も単純だとは限らない。現に最近Natureに発表されたSteinmetzたちの論文では、遺伝的性質が複雑であることが示されている。Steinmetzたちは、Saccharomyces cerevisiaeの特定の菌株を対象として高温増殖(Htg)表現型をもたらす量的形質について調べた。今回の研究では予想外に複雑な遺伝的性質が示され、他の生物について量的形質遺伝子座(QTL)マッピングをしようとしている研究者に対する警鐘となっている。 Steinmetzたちは、Htg形質に関するマッピングをするためにS. cerevisiaeの2種類の菌株(Htg形質のある菌株とない菌株)を交配させた。次にマイクロアレイ解析を使い、この交配によって作られたHtg+菌株とHtg-菌株のゲノム全体を比較し、組換え点のマッピングを行った。その結果、14番染色体上にHtg形質と関係があると思われる遺伝子座(QTL)が特定された。この遺伝子座については詳細な塩基配列決定と遺伝子発現量の比較が行われたが、この遺伝子座にどのような遺伝子が位置するのかという点については明確な答えが得られなかった。 そこでSteinmetzたちは相互半接合解析という新しい手法を利用した。この解析においては、親の染色体の同じ1つの遺伝子について、二倍体の異なる一方を欠失させた菌株どうしから新たな二倍体菌株を作り出した。こうすることで1つの遺伝子の対立遺伝子1つ1つにつき、表現型に対する寄与度を個別的に調べることが可能となる。その結果、14番染色体上のQTLの場合には、Htg+である親に由来する2つの遺伝子MKT1RHO2の対立遺伝子が、子のHtg表現型に寄与していたことが判明した。ところが意外なことにHtg-である親に由来するEND3の1つの対立遺伝子も子のHtg表現型に寄与していた。この知見は、2つの菌株をかけ合わせた初代の交配種に雑種強勢が見られる原因を解明する上で役立つ。 このような「単純な」生物から得られた興味深い研究成果は、今やQTLマッピングの主流となっている複雑な生物(農作物、マウスやヒト)のQTLマッピングを目指す研究にとって有り難くないかもしれない。QTLの影響がわずかな場合や菌株間での意外な対立遺伝子の組合せによってQTLの一部が作られた場合(例えばHtg表現型の場合)においては、従来の手法を使うとQTLを見落とす可能性がある、とSteinmetzたちが考えているからだ。

doi:10.1038/fake461

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