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顔がかわいいだけじゃないよ

Nature Reviews Genetics

2002年12月1日

一部のヒツジは、ほぼ20年間にわたって、「キャリピージ表現型」として一般に知られる美しい臀部をもたらす遺伝子多型を持ち続けている。見栄っ張りの人々にとっては、喉から手が出るほど欲しい遺伝子と言える。教科書的に言えば、この表現型の原因となっている単一の遺伝子座における変異によって筋肉が肥大しているのだが、そうなるまでの遺伝的プロセスが変わっており、「polar overdominance」と呼ばれている。すなわちヒツジがキャリピージ遺伝子に関してヘテロ接合で、その遺伝子を一方の親(この場合には父親)から受け継いでいる場合にのみ、この表現型となるのだ。このほど発表された論文でB A Frekingたちは、キャリピージ、すなわち筋肉倍増形質の原因となっているCLPG遺伝子の一塩基多型を正確に説明した。この発見は、ヒツジを飼育する業者や遺伝学者にも関係がある。この研究結果によって赤身の肉の多いヒツジを飼育できるかもしれないし、表現型の遺伝の一因となっている後成的機構の解明が進むかもしれないからだ。 これまでのCLPGマッピング研究では、CLPGの位置が18番染色体の小さなテロメア領域(400キロベース)まで遺伝学的に絞り込まれていた。これだけ小さな領域なのだから直接シーケンス法で遺伝子多型を発見するのが現実的なアプローチと言える。ところがヒツジの遺伝子多型性はバックグランドレベルが高いため、変異したヘテロ接合体と正常なホモ接合体を比較するだけで原因SNPを検出することは不可能だった。そこでFrekingたちは、研究対象としていたヒツジの群れの系図を調べてみた。特に1頭の臀部の発達した雄のヒツジが重要な意味をもっていた。その18番染色体は、2本とも重要な領域が同じで、おそらくは代々そうなっていたと思われる。なお一方にのみCLPGの変異があった。この雄ヒツジの塩基配列と参考用の遺伝子型を比較したところ、616個の多型が見つかった。ただし筋肉倍増形質と一意的に対応する可能性があるのはアデニンからグアニンへの変異ただ1つだった。このグアニン対立遺伝子をもたないヒツジの種類が数多いことから、系図のスクリーニング調査が、特定の表現型の原因となる遺伝子多型を発見する方法として現在のところ最も信頼性が高いことがさらに確認された。 研究がここまで進展するために10年を要したが、キャリピージ表現型の1つの重要な側面が解明されるに至った。このことは、CLPGの多型の機能解析が始まることを意味する。このCLPG領域は、ウシ、ヒトやマウスのゲノムで保存されており、その遺伝子多型はRNA転写産物に組み込まれているかもしれない。しかしそれ以外の機能についてはほとんど解明されていない。この遺伝子多型について、例えばこの遺伝子領域でのインプリンティング状態を変えることで何らかの調節を行う機能があるのかどうかを調べるための研究が行われたが、思わしい結果は得られなかった。この筋肉倍増形質をとことん究明するには、さらなる研究が必要なことは明らかだ。

doi:10.1038/fake468

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