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求愛のお話

Nature Reviews Genetics

2003年1月1日

雌雄間の相互作用を詳しく研究することは、好色趣味などではなく、生物の繁殖という最も基本的な問題を研究するための唯一の方法だ。ショウジョウバエに関する最近の2論文は、この論点豊富な研究分野で取り組まれているテーマのうちの2つを取り扱っている。Dauwalder et al.の論文では、雄に特異的に発現し、求愛行動にとって必要な遺伝子について記述されている。Miller and Pitnickの論文では、交尾後の雌雄間の相互作用によって生殖形質(この場合は精子尾部が長くなること)の進化がどう促進させるのかが初めて示されている。 雄のショウジョウバエは、手の込んだ求愛の儀式を行って、求愛行動の主導権を握っている。求愛のような性特異的な行動は、身体の性的特徴と同様に、性特異的な形態のDoublesex(Dsx)とFruitless(Fru)という2種類のタンパク質の作用が組み合わさることによって調節されている。それはどのような過程によるのだろうか?その答えの一部を提示しているのがDauwalder らの研究だ。ここではtakeout (to)遺伝子が研究対象で、RNA差引きハイブリダイゼーションスクリーニング検査において、この遺伝子が雄の頭部に特異的に発現していることが判明した。その後行われた突然変異体の研究では、雄の求愛行動にとってtoが必要なことが判明した。すなわち変異したtoをもつ雄のショウジョウバエは相手の雄雌を区別できたが、その求愛行動の頻度は低下したのだった。to遺伝子には、20種類の分泌タンパク質ファミリーの1つがコードされているが、この遺伝子の発現にはDsxとFruの雄に特異的な形態が存在している必要がある。このように、この研究は、性特異的な行動に関与するDsxやFruの標的を初めて特定するとともに、(頭部の細胞でtoが発現する)脂肪細胞がどのようにして求愛行動を調節するのかという好奇心をそそる問題点を提起している。 数多くの雄の形質が発生する原因の1つは、雌が主導する性選択だ。クジャクの尾は最も著名な例だ。Miller and Pitnickの論文では、雌の選り好みによって、性選択形質(長くなった精子尾部)が進化することが実験的に示されている。精子尾部の長さは、遺伝性が高いため、精子尾部が極めて長いショウジョウバエの一群と極めて短いショウジョウバエの一群を飼育することができた。精子尾部が極めて長い雄と極めて短い雄に対応した精子貯蔵器官(受精嚢)を有するように飼育された雌とこれらの雄を交配させる実験を行ったところ、雄の精子尾部が長く、特に雌の受精嚢が長い方が、雄の精子尾部が短い場合より卵子の受精率が高かった。以上の研究結果やその他の結果は、精子の長さに適応性があり、雌の身体による選択が精子の形態に影響することを示している。その理由としては、精子が長い方が、長い受精嚢において有利な位置を占めやすいからだと考えられる。 以上の2つの研究の生物学的意義はショウジョウバエに留まらず、広範囲に及ぶ。例えばtakeout遺伝子がショウジョウバエの飢餓耐性を高めることは既に明らかにされているが、食欲と性欲との関連性を明らかにできれば面白いだろう。

doi:10.1038/fake472

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