Highlight

極めて小さなRNAの宇宙が膨張している

Nature Reviews Genetics

2003年4月1日

RNAに遺伝子発現制御能があるという発見は、近年の発見の中で最も興味深いものの1つと言える。この中、RNAi、植物におけるPTGS、そしてアカパンカビ属における鎮圧現象(quelling)に加え、発生のタイミングを制御するstRNAも含む。Caenorhabditis elegansから発見されたlin-4let-7というstRNAは、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる低分子RNAグループの主要な構成要素である。miRNAは、通常、長さ約22ヌクレオチドで、特有のステムループ構造をもつ大きな前駆体(長さ約70ヌクレオチド)から切り出されている。miRNA遺伝子のファミリーは、植物ゲノム、動物ゲノムのいずれにも存在している。このほど論文を発表したBartelたちは、計算ゲノム科学的アプローチで脊椎動物に幅広く保存されているmiRNAを特定しようと試みた。その計算手順(MiRscan)によれば、脊椎動物のゲノムには200〜255個のmiRNA遺伝子が含まれていると予測され、これは予測されているヒト遺伝子の総数のほぼ1%に相当する。

MiRscanの詳細は、別の学術論文誌で近日発表される予定になっているが、この方法を使うと、進化の過程で保存されてきたステムループ構造のmiRNA前駆体を特定できる。すなわち、それぞれの前駆体候補について、一度に21ヌクレオチド分をスキャンし、進化の過程で保存されてきたC. elegansのmiRNAに最も近いものを検出できるようになっているのだ。Lim et al.の研究では、ヒト、マウスとFugu rubripesのゲノムが比較され、ヒトゲノムにおいて約15,000のステムループ断片が特定された。これらの断片は、すべてタンパク質コード領域以外のもので、少なくともその一部がマウスとFuguでも保存されていた。そしてMiRscanによって、このステムループ断片は188まで絞り込まれたが、MiRscanの感度からすると、この数はmiRNA遺伝子の総数の74%にあたると考えられ、よってmiRNA遺伝子の数は最大でも255とされた。

一部のmiRNAについては遺伝子座が既に知られており、MiRscanによって107の新たなmiRNA候補が特定されたことから、Lim et al.は、今後ヒトについて新たに発見されるmiRNAの遺伝子座はせいぜい約40ヶ所であると指摘している。この推測が正しいかどうかは、MiRscanの予測精度に依存しているため、Limたちは、miRNA候補の検証を始めた。これらの候補の中には、以前にクローニングされたmiRNAと密接な関係にあるものや、特にmiRNAやsiRNAが含まれるように構築されたゼブラフィッシュのcDNAライブラリの一部となっているものもあったが、Lim et al.の研究では、55個のmiRNA候補について検証ができなかった。そこでLimたちは、ゼブラフィッシュ実験の感度とゲノムの不完全性を考慮に入れて、最小特異度を計算し、ヒトmiRNA遺伝子の総数の下限を200とする考え方を発表した。

確かにMiRscanは線虫のmiRNAで「訓練された」計算手順だが、ほとんどの脊椎動物miRNAをも特定することができた。このことは、ほとんどのmiRNA塩基配列が保存されなかった一方でmiRNAとその前駆体の一般的な特徴が一部保存されていたことを示している。Limたちは、タンパク質をコードする遺伝子ファミリーとmiRNA遺伝子ファミリーとの間に類似性が見られることを指摘している。miRNA遺伝子は、予測されたヒトの遺伝子の約1%に相当し、この割合は他の調節遺伝子のファミリーもほぼ同じだ。酵母にmiRNA遺伝子がないことから、Lim et al.の論文では、miRNA遺伝子は細胞分化と発生におけるパターン形成を調節するために進化した可能性があるとされる。この考え方は既知のmiRNAの一部について確かに当てはまる。今回特定されたmiRNAの機能についても近い将来に判明することは間違いないだろう。

doi:10.1038/fake473

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度