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あなたなしでは生きてゆけない

Nature Reviews Genetics

2003年6月1日

実際に機能する細菌のゲノムをゼロから合成することを目指すCraig Venterの最新の研究プロジェクト(「ミニマルゲノムプロジェクト」)は、評判の点では、公的資金によるヒトゲノムプロジェクトとセレラ社が繰り広げた競争の時に匹敵しそうだ。ただし、最小ゲノムとして機能するために必須の遺伝子リストのうち、これまでで最も信頼性が高いリストを生成したのは、ヨーロッパと日本の研究者による重要な共同研究だ。この研究では、枯草菌(Bacillus subtilis)の遺伝子を系統的に不活性化することによって、この遺伝子リストが生成された。

このKobayashi et al.の研究では、遺伝子を不活性化するために、複製しないプラスミドを1回の交叉型組換えによって標的遺伝子に挿入した。短い遺伝子は、この方法で不活性化することが難しいため、選択される可能性のある遺伝子と置き換えられた。そして特定の遺伝子が不活性化された時や置き換えられた時に生きた菌株が得られなかった場合、その遺伝子が必須遺伝子である可能性があると判断された。次にその遺伝子の発現がIPTG誘導性プロモーターによって制御される時に菌株の増殖がIPTGに依存する場合に、その遺伝子が必須遺伝子だと確認された。

注釈づけの行われた4,101個の枯草菌遺伝子のうち、271個が細菌の増殖のために必須の遺伝子だと判定され、そのうち150個が今回の研究で初めて同定された。これらの必須遺伝子の約半分は、DNA代謝、RNA代謝やタンパク質合成に関与している。

細胞外被、細胞形態や細胞分裂のために必要な遺伝子は、必須遺伝子全体の約5分の1を占めており、そのほとんどが細胞壁の合成に関与している。

上述したグループの必須遺伝子は、これまでの研究結果から必須遺伝子候補の常連とされている。しかし細菌の細胞にエネルギーや構成物質を供給するエムデン・マイヤーホフ・パルナス経路(EMP経路)の遺伝子のほとんどが必須遺伝子だという事実は、とても思いがけないことだった。

今回の実験では富栄養培地が用いられているため、EMP経路は必要とされていないはずで、またEMP経路の少なくとも一部は別の生化学的経路によって迂回しうることが既に知られている。よってEMP遺伝子が細菌の増殖のために必須であるという事実は、EMP遺伝子によってコードされた酵素に、これまで知られていなかった別の極めて重要な役割があることを示している。

枯草菌は、研究の最も進んだ細菌の1つであるが、Kobayashi et al.の論文で、枯草菌において同定された必須遺伝子のリストが、全ての細菌と関連性があると考えられる。同定された必須遺伝子の約80%については、さまざまな細菌に相同遺伝子があり、その49%は真核生物に相同遺伝子がある。また各種細菌ゲノムの比較解析をしたところ、小規模な細菌ゲノムでは、細胞外被、細胞形態、細胞分裂や細胞呼吸に関与する必須遺伝子の選択的喪失が起こることが判明している。よって小規模な細菌ゲノムの方が、必須遺伝子の数が少ない可能性が高い。つまり、枯草菌のような大型のゲノムをもつ細菌の場合よりも単純な方法で細胞区画を生成、維持、複製することが可能なのだ。

すべての必須遺伝子リストは、栄養と環境状態の観点から検討する必要がある。もし枯草菌を最少培地や枯草菌の自然環境で培養した場合には、必須遺伝子リストがかなり長くなると考えられる。また遺伝子ファミリーが必須機能をコードしており、パラロガス遺伝子の1つが特定の必須機能を果たしうるような場合にも必須遺伝子リストは長くなると考えられる。しかし今回の研究では、そのような遺伝子を検出できないと思われる。1つの菌株につき1つの遺伝子しか不活性化していないからだ。

実際に機能する細菌のゲノムをゼロから構築することは、確かに魅力的なプロジェクトではあるが、ゲノムの機能をin situで解明する上で、どの程度役に立つかという点については議論の余地がある。

doi:10.1038/fake475

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