Highlight
頭と尻尾の切り落とし
Nature Reviews Genetics
2003年7月1日
品川敏恵と石井俊輔は、インターフェロン反応を避けながら、長い二本鎖RNA(dsRNA)を哺乳動物の細胞に到達させる方法を考案した。インターフェロン反応とは、ウイルス防御機構の1つで、RNAの非特異的分解と細胞死を引き起こす。これまでRNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターをベクターに使って、RNAiを誘導する場合、Pol II転写産物が細胞核からサイトゾルに輸送され、インターフェロン反応を引き起こすことが主たる問題となっていた。
この問題の発生を回避するため、品川と石井は、転写産物のサイトゾルへの輸送にとって必要な5’末端の7-メチルグアノシン(m7G)キャップ(「先頭部」)と3’末端のポリ(A)尾部をもたないmRNAを発現するベクターであるpDECAPを構築した。そしてm7Gが確実に切断されるようにリボザイムのカセットを付加するという巧妙な方法を使い、またポリ(A)付加配列を欠損させることでdsRNA転写産物の尾部を切り取ったのだった。
このようにdsRNAの先頭部と尾部を切断することで、転写産物のサイトゾルへの輸送が阻害される。長いdsRNAは、細胞核でsiRNAとなった後に細胞質に輸送され、標的mRNAを分解する。
品川と石井は、この方法を使って、マウスの癌遺伝子Skiの発現を低下させた。そして時間のかかるノックアウトマウス作製作業を経ずに、Skiノックアウトマウスの表現型をシミュレートすることに成功した。
この新手法を用いることによる大きな利点は、全ての種類の細胞で同様に活性化するPol IIIのようなRNAiベクター用プロモーターだけしか使えないという制約がなくなったことだ。これに対して、哺乳動物のタンパク質をコードする遺伝子すべてを転写するPol IIプロモーターは、さまざまな転写調節因子との相互作用に応じて組織特異的なものとなり、あるいは組織特異性を誘導可能となる。よって、この新たな方法を使えば、組織特異的なノックダウンマウスや組織特異性を誘導可能なノックダウンマウスを容易かつ効率的に作製できるようになる。
短期的に見れば、短いヘアピン型RNA を使ったRNAiトランスジェニック動物系が今後も頻繁に用いられることに間違いはないが、今回発表されたdsRNAを使う方法は、その優位性を大いに揺るがせることになるだろう。
doi:10.1038/fake476
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