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不安障害の原因は遺伝子重複なのか?

Nature Reviews Genetics

2003年10月1日

パニック障害や広場恐怖症のような不安障害は、さまざまな位置にある遺伝子やそれらの遺伝子と環境との相互作用に起因する複雑疾患で、全人口の20%にあたる人々が一生の間に発症する可能性がある。複雑疾患の中でもクローン病など一部の疾患については、遺伝的感受性決定因子が単離されているが、精神病について遺伝的感受性決定因子を特定することは、より困難だった。ところでGratacòsたちは、パニック障害や恐怖症に対する感受性と関連するゲノム多型についての研究論文を初めて発表した。新たに発見された突然変異メカニズムによってヒトの15番染色体に重複配列が生じるのだ。 今から10年前、関節弛緩症または運動過剰症の患者が不安障害を発症する可能性は一般人の4倍だとする観察結果がBulbena et al. において報告された。これを根拠としてGratacòsたちは、精神病の表現型と関節疾患の表現型に共通の遺伝的基盤があるのかどうかを調べる研究を行おうと決めた。彼らは不安障害の患者のいる7つの拡大家族を調べたところ、案の定、これらの家族の総員の約64%が関節弛緩症を発症していた。 また暫定的な細胞遺伝学的研究も行われ、その結果、全ての試料につき、15番染色体上の特定の遺伝子が突然変異していることが推定され、それが15q24-26における約17Mbの腕内重複(DUP25)であると同定された。その後、規模を拡大して行われた細胞遺伝学的研究では、1種類以上の不安障害を発症した患者の90%、関節弛緩症の患者の80%に上述の遺伝子重複が見られたが、対照群では7%にしか見られなかった。DUP25と不安障害との関連は、散発的な症例と家族性の症例のいずれの場合にも認められた。同じ家族の成員でも遺伝子重複の方向性と位置には個人差があり、同じ個人であっても細胞によって差異が見られるため、Gratacòsたちは、この遺伝子重複がメンデルの遺伝法則に従わない遺伝をすると考えている。その一方で、彼らは、DUP25をはさむ低コピー数の反復配列が関与する非相同的有糸分裂組換えが起こる可能性を主張している。DUP25を構成する59個以上の遺伝子のうちの1つ以上の遺伝子の量的変化が、上述した臨床的表現型に寄与している可能性がある。 Gratacòosたちの研究は、各種不安障害と関節弛緩症との関連を説明するだけでなく、主要な精神病である不安障害に対する感受性に影響を与える遺伝的要因の証拠を初めて示している。しかしDUP25によって遺伝子量が阻害される1つ以上の重大な遺伝子を同定することは容易なことではないだろう。DUP25が非メンデル遺伝をするのであれば、単純明快な方法である連鎖解析が使えないからだ。Gratacòosたちは、DUP25をマーカーとして使用し、関節弛緩症との関連を利用するように診断ツールが改良され、この研究作業が楽になると楽観的に考えている。また上述した疾患の発生過程を解明し、新たな治療法を発見する上でDUP25のマウスモデルもまた極めて重要な存在となるだろう

doi:10.1038/fake477

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