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ラットのクローン作製

Nature Reviews Genetics

2003年11月1日

長い間待ち望まれていたクローンラットの成功という甘い香りが、最近、Scienceのオンライン版から漂ってきた。 これまで数多くの試みがなされたにもかかわらず、クローン研究者は、体細胞核移植(SCNT)によるクローンラットの作製に成功しなかった。ラットの卵母細胞を輸卵管から採取すると、60分以内に卵母細胞が自発的に活性化を始め、その進行が途中で停止するため、除核卵母細胞への体細胞核の移植が間に合わないという問題があったのだ。 この問題を回避するため、Qi Zhouたちは、ワンステップSCNT法という迅速な方法を開発した。この方法では、マイクロピペットを使って、体細胞核を卵母細胞の中に注入し、その後、マイクロピペットを引き抜く際に細胞内の減数分裂期の染色体を吸い上げるのだ。 しかし、このような妙技によっても、卵母細胞の早期活性化の問題を解決できなかった。すなわちSCNTのために選ばれた卵母細胞の40%で、染色分体が1組ずつ両極に移動したことが観察されていた。これが、卵母細胞が既に活性化していることの証拠なのだ。また数多くの養母の体内に数百個のSCNTによる再構築胚を移植したにもかかわらず、胎仔が成長を始めた事例はなかった。Zhouたちの見事なほど迅速な操作を行っても、ほとんどの卵母細胞はクローン作製に適していなかったのだった。 そこでZhouたちは、SCNT法を改良した上で、ラットの卵母細胞を採取する際にプロテアーゼインヒビター(MG132)を用い、卵母細胞の第一減数分裂の中期から後期への移行を阻害した。このように卵母細胞の活性化を可逆的に阻害することで問題が解決された。数多くの卵母細胞を用い、再構築胚を養母ラットの体内に移植し、一定期間後に解剖したところ、そのうち4匹の養母の体内で16匹の胎仔が成長を始めていたことが確認された。 この実験の次の段階では、胚と養母の数を減らし、同じ方法でクローン作製が試みられた。その結果、1匹の雌が妊娠し、とうとう3匹のクローンラットが誕生する瞬間が巡ってきた。そのうちの2匹は、性成熟するまで生き延び、通常の生殖方法で仔ラットを産み、妊性があることも証明された。 ラットは、数多くの人間の疾患を研究する上で重要なモデル動物であるが、ラットのクローン作製に成功したことは、人間の疾患モデル動物を研究する者にとって大きな前進と言える。しかし、クローン作製の難しい動物種に取り組んでいる研究者をどれだけ励ますことになるかを考えると、今回の成功は、ますます興味深い。もしかすると、それぞれの動物種に特有の技術的微調整をするだけで、それらの種のクローン作製も成功するかもしれないのだ。

doi:10.1038/fake478

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