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複雑な問題に対する単純な解答

Nature Reviews Genetics

2003年12月1日

複雑な形質の原因となる遺伝子のクローン作製は、遺伝学の研究者が直面する困難な課題の1つとなっている。最近、1つの遺伝子座が単純な一遺伝子性形質と複雑形質の双方の原因となっていることを報告する論文がNature Geneticsに掲載されたが、この論文には数多くの遺伝学の研究者が興味をかき立てられることだろう。 このMin-Oo et al. の論文では、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(Pklr)が網状赤血球増加症(血液中の未成熟な赤血球の割合の増加を特徴とする)の原因遺伝子座であり、なおかつマウスのマラリア耐性の原因遺伝子座でもあることが特定された。 Pklrがマラリア耐性の原因でもあるという事実は、Min-Ooたちが2系統のコンジェニックマウス(AcB55、AcB61)についてマラリア耐性の遺伝的基盤を解明しようと研究している際に発見された。連鎖解析の結果、上述したコンジェニックマウスの血液中のマラリア原虫負荷量に影響を与える遺伝子座(Char4と命名された)が3番染色体上に特定された。 これら2系統のマラリア耐性マウスは、未成熟な赤血球の量が、マラリアにかかりやすいマウスよりもはるかに多かった。このように未成熟な赤血球が多いという単純な形質とマラリア耐性という複雑形質との関係を解明するため、Min-Ooたちは、網状赤血球増加症の原因遺伝子座の特定を試み、その結果、3番染色体上のChar4領域に特定された。そして公共データベースを使って、赤血球で特異的に発現する遺伝子候補の検索が行われ、その結果見つかったのがPklrだった。この遺伝子座にはピルビン酸キナーゼがコードされている。ピルビン酸キナーゼは赤血球におけるATP合成にとって極めて重要だ。2系統のマラリア耐性マウスには、やはりPklrに同じ置換変異が見られた。ヒトの場合、PKLRに同様の突然変異があれば、ピルビン酸キナーゼ欠乏症と貧血が起こる。 Pklrの突然変異によってマラリア耐性が生じる機構は明確になっていないが、Min-Ooたちは、未成熟な赤血球が多いことと血液中のマラリア原虫の数が少ないことには相関関係があり、突然変異したPklrがホモ接合していると、マラリアによる死亡率が低下する関係にあることを実証した。 PklrChar4が対立遺伝子座だということは正式には証明されていないが、これを強く示唆する事実はいくつか存在する。すなわちPklrChar4は、3番染色体上の同じ範囲内に特定されており、遺伝形式が同じで、Pklrが作用する細胞がマラリア原虫のin vivoでの増殖の主要部位となっており、Pklrが突然変異している場合にマラリア原虫の負荷量が少なく、マラリアによる死亡率が低いのだ。 今回の話には興味深い側面がいくつかあるが、その1つはヒトにおけるPKLRの突然変異と関係している。PKLRの突然変異は、遺伝性の溶血性貧血の最も一般的なタイプの原因となっている。この種の貧血がヒトに多いのは、PKLR変異遺伝子の保持者をマラリアにかかりにくくするという利点があるからだと説明できるかもしれない。これは、ヘモグロビンCやαサラセミアの場合における突然変異の作用と同じだ。この点について、Min-Ooたちは研究を続けている。

doi:10.1038/fake479

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