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思ったよりも頻繁に起きている突然変異

Nature Reviews Genetics

2004年9月1日

遺伝子座当たりの突然変異率や全ゲノム突然変異率は、進化遺伝学上のいろいろな仮説の基盤となっている数多くの計算式で変数に用いられている。しかし突然変異率を実験的に正しく推定することは難しい。このような正しい推定を目指して、いくつかのグループが、「突然変異蓄積」系統のDrosophila melanogasterCaenorhabditis elegansを使った研究を行ってきた。その際には、遺伝的に同一な系統のD. melanogasterC. elegansを何世代にもわたって良好な環境下で飼育し続け、選択圧を最小限に抑える努力が払われた。そのようなアッセイは長い時間を要し、作業は退屈だった。このなかには、それぞれの世代において、C. elegansを一匹ずつ隔離し、ストレスのかかるデートによる選択圧の発生を避けて、自家受精させたものも含まれている。

これまでの研究では、適応度による解析法を用いて、各系統の生物に生じた突然変異の数を評価し、間接的に突然変異率の推定値を求めていた。D. R. Denverたちは、より直接的な推定を目指して、上述した特別な系統のC. elegansを使って再度解析を行い、ゲノム上に散在する4Mbを超える遺伝子座について配列解読をした。Natureに掲載されたDenverたちの論文によれば、ハプロイドゲノムの総突然変異率は約2.1回/ゲノム/世代となっている。この推定値は、従来の最良推定値より一桁大きく、同じ系統のC. elegansを使って間接的に得られた推定値よりも二桁大きい。(ただし、これまでの研究では有害突然変異率が推定されていたが、Denverたちは総突然変異率を推定している。)そればかりか、Denverたちの論文では、突然変異としては挿入変異の方がより多く見られると記されている。これに対して、偽遺伝子を使った解析研究では、C. elegansで自然に起こる突然変異のほとんどが欠失変異だとされていた。

そのため、今回のDenverたちの研究は、この分野全体の研究者に対して、時間の経過に伴う突然変異プロセスや突然変異の測定法について再考を促す内容となっている。この研究論文によって論争が起こるまでには、さほどの時間はかからないだろう。上述したNatureにはRosenbergとHastingsによる示唆に富んだNews and Views記事も掲載されており、Denverたちの研究で上記の結果が得られたメカニズムについての推測が行われている。Denver et al.の論文において示唆されているように、従来の研究では、表現型を生み出すような突然変異だけを検出したために誤った推定値となったのか。それともDenverたちの研究で使用された方法によって、有害な選択が働かなくてもC. elegansにおける突然変異の発生が促進され、もしかするとストレス応答を引き起こすことでも突然変異が促進されていたのだろうか。この問題に決着をつけるためには、「優雅な隠居生活」と決め込んでいたC. elegansをもう一度引っぱり出して、研究を行う必要があるかもしれない。

doi:10.1038/fake480

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