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回路構成を作り直す

Nature Reviews Genetics

2004年1月1日

ヒトとヒトより相当に単純な動物を比較した場合、遺伝子の数はヒトの方が多いが、その差はさほど大きくない。その理由について、ある学説は、ヒトが進化して、発生過程における同じ遺伝子の調節が数多くの経路でなされるようになったからと説明する。このほど2種類の酵母種において接合型を調節する転写回路を比較した詳細な研究が発表されたが、この研究では、進化による調節回路の作り直しの重要性が明らかにされている。 酵母の接合行動は接合型遺伝子座によって調節される。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの場合、この遺伝子座(MAT)には3種類の転写調節因子(α1、α2、a)がコードされている。そしてS. cerevisiaeの遠い近縁種であるCandida albicansの相同遺伝子座(MTL)にも同じように転写調節因子がコードされていると考えられてきた。ところがMTLにおいて従来見落とされてきたオープンリーディングフレームが偶然にノックアウトされたことがきっかけで、MTLにはもう1つの転写調節因子(a2)もコードされていることが明らかになった。 このa2の役割を調べ、C. albicansにおける接合型調節の全容を解明するため、Annie Tsongたちは、可能な全ての組み合わせに基づいて調節因子の欠失を行い、16種類の可能な変異菌株の接合行動と転写プロフィールを解析した。 接合行動データの全容を把握したTsongたちは、a2とα1が、それぞれa接合型とα接合型の正の調節因子である一方、a1とα2が、効率的な接合にとって必要な白色期から不透明期への転換能に負の調節を加えるヘテロ二量体を構成していることを明らかにした。これに対してa2のないS. cerevisiaeの場合には、MATが発現しない限り細胞はa接合型となり、α2がある場合にはa型接合に対する負の調節因子の役割を果たす。 以上の接合実験と遺伝子発現データとを総合すると、接合調節に関する新たな知見が得られる。C. albicansS. cerevisiaeにおける個々の遺伝子の調節の差異よりもいっそう興味深いのは、転写回路構成のちがいだ。例えば、a特異性遺伝子はS. cerevisiaeの場合に負の調節を受けるが、C. albicansの場合には正の調節を受ける。またC. albicansの場合には、さらなる接合調節があり、それは接合のために必要な白色期から不透明期への表現型の転換に反映されている。 Tsongたちは、C. albicansS. cerevisiaeが、それらの共通祖先に見られる転写回路構成の一部を保持し続けている可能性を示している。すなわち、S. cerevisiae菌株の場合には、祖先から受け継がれたa特異性遺伝子に対する正の調節が負の調節に置き換えられた、と考えている。(この正の調節は、C. albicansの場合には今でも保持されている。)またC. albicansにおける白色期から不透明期への転換は、宿主の哺乳動物の生活に対する最近の適応の結果である可能性が高く、それとかなり昔の祖先から保持されてきた調節回路とが、やはり適応のために組み合わされたと考えているのだ。 したがって調節回路要素をうまく組み合わせることは、進化の結果、複雑度を増し、新たな環境に適応するようになる際の有効な手段であるように思われる。今後解明すべきなのは、規模の問題だと思われる。この転写回路の作り直しという考え方によって、ヒトと酵母の複雑度のちがいほど規模の大きなちがいを説明しきれるのかどうかを解明しなければならないのだ。

doi:10.1038/fake481

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