Highlight

モデル生物のニューウェーブ?

Nature Reviews Genetics

2004年2月1日

これまでモデル無脊椎生物で見られなかったために脊椎生物に特異的なものと考えられていた遺伝子群がサンゴで見つかった。 Daniel Kortschak、Gabrielle Samuelたちの研究グループは、ハイマツミドリイシ(Acropora millepora)のcDNAライブラリから約2,500件の発現配列タグ(EST)を収集した。ハイマツミドリイシは、後生動物の進化の初期に別の動物門から分岐した刺胞動物門を代表する生物だ。低品質の塩基配列とベクターコンタミネーションのある塩基配列が排除され、1,376件のESTクラスターが解析対象となった。 次にKortschakたちは、サンゴで見つかった上述の遺伝子群の相同遺伝子が他の後生動物にもないかどうかを調べてみた。意外なことに、ヒト遺伝子だけで相当な数の明確な相同遺伝子が見つかったのだった(53/492、11%)。 この知見には、とても重大な意味がある。すなわち、これまで脊椎生物特有の遺伝子とされていたものの多くが、実はそうではなく、モデル無脊椎生物の系譜上で失われてしまった大昔の後生動物の遺伝子だと考えられるのだ。 今回のEST解析は、決して網羅的なものとは言えない。しかしながら、ショウジョウバエと線虫のいずれからも失われてしまった重要な遺伝子群がサンゴにあるということは、サンゴのゲノム配列が完全に解読されれば、これまで脊索動物に特異的な遺伝子と分類されていた遺伝子の数が相当に減ることを意味している。 サンゴのゲノムとヒトゲノムの類似性は塩基配列レベルにも及んでいる。脊椎生物と無脊椎生物のいずれにも相同体のあるサンゴのESTは、無脊椎生物よりも脊椎生物の塩基配列との類似性がずっと高い。ここでもモデル無脊椎生物の方が特殊なものとなっている。ショウジョウバエや線虫の系譜における塩基配列の進化速度の方が速いため、サンゴやヒトの遺伝子よりも後生動物の共通祖先の遺伝子との差異が大きくなってしまっているのだ。 他の後生動物のゲノムについての解明が進めば進むほど、最も一般的に用いられているモデル無脊椎生物の特殊性が浮かび上がってくるように思われる。理想的なモデル生物は「普通」であるべきことが当然なので、従来とは異なる線虫や昆虫をモデル種として使用することを検討すべきなのかもしれない。 これは、表面上、ばかげた考え方に見えるかもしれない。ショウジョウバエや線虫の研究には極めて多くの人々が関わっており、相当の知力と財力が投入されてきているからだ。それでも私たちが思慮深く、現行のショウジョウバエや線虫モデルの近縁種で、現行モデルよりも「普通」な生物をモデル生物に選んだならば、これまで伝統的に用いられてきた無脊椎生物において展開されてきたツールや知識を適用することは可能である。そして、それによって後生動物一般について、そして具体的にはヒトについて示した結果が得られることが期待できるだろう。ショウジョウバエと線虫のゲノム概要配列が出来上がった今こそ、モデル生物のニューウェーブを検討すべき時なのではないのだろうか?

doi:10.1038/fake482

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度