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ラットの年

Nature Reviews Genetics

2004年5月1日

世界で最初の実験用哺乳動物だったラットは、ゲノム配列の解読では、マウスに次いで2番となった。
遺伝モデルとしてのラットは、これまで長い間、マウスの後塵を拝していた。それでもラットは、生理学や新薬開発など数々の生物医学研究分野で特にすぐれたモデル動物種であることに変わりはない。ベイラー医科大学ヒトゲノム解読センターによって推進される国際ラットゲノム解読コンソーシアム(RGSPC)は、このほど、ラットの2.7ギガベースのゲノム配列を解読し、明確な遺伝学的枠組みを提示した。これは、上述の研究分野で生成される実験データを解釈する上で非常に貴重な存在となるだろう。
RGSPCは、全ゲノムショットガン配列決定と細菌人工染色体(BAC)配列解読を行って、ラットゲノムの概要配列を作成した。この研究方針は、作業の迅速化(2年未満)、概要配列の品質(「完全配列」とほぼ同じ品質)のいずれの点でも効を奏した。
ラットのゲノム配列は、哺乳動物としては3番目に解読されたゲノム配列で、これまで以上に短期的な時間枠でゲノムの進化を解明するための手がかりとなる。人類が、げっ歯類から枝分かれしたのが今から7,500万年前であったのに対し、ラットとマウスの系統が分岐したのは、今から1,200〜2,400万年前と、ずっと最近のことだったからだ。
ラットのゲノムには、マウスやヒトの場合とほぼ同じ数の遺伝子が含まれているが、ラットがマウスから枝分かれした後にいくつかの注目すべき変化があった。特に、免疫、化学感覚、解毒やタンパク質分解に関与する遺伝子ファミリーが増えており、このことは、ラットの系統が進化してきた過程での適応にとって、これらのプロセスが重要だったことを反映しているのは、ほぼ確かだ。
ラットのゲノムが解読されたことで、哺乳動物のゲノム一般の特徴や進化に関する知見も得られるようになる。例えば、「何が真獣類哺乳類ゲノムの核心部分か」がより明確にわかるようになった。この部分は、真性染色質ゲノムであるラットゲノムの約40%に対応している。またRGSPCは、これまでに解読されたヒト、マウス、ラットのゲノムの間で相違している部分のうち、ヒトの系統に生じた部分、げっ歯類に特異的な部分、げっ歯類のマウスとラットだけの特徴となっている部分を解明することができた。一般的にいって、霊長類よりもげっ歯類の系統の方が(再編成、塩基置換などによって)ゲノムが頻繁に変化したようだ。
しかしゲノミクスという研究分野から見ると、ラットゲノムの概要配列とヒトやマウスのゲノム配列との相違点の中でおそらく最も注目すべきなのは、今後、ラットゲノムの解読内容が改訂されたり、完全配列が作成されることが当面はない可能性が高い点だ。RGSPCも明確に認めているが、このような決定がなされたのは、ゲノム配列解読を完成させるためには、これまで以上の人的物的資源が必要となる一方で、資金的援助が不足しており、別の生物種のゲノム配列解読作業を優先させる緊急の必要性もあるためだ。非常に低コストで配列解読のできる技術が開発されるまでは、「差し当たり十分」な程度で終わりとされる真核生物ゲノムの配列解読研究が増えることが予想される。もし配列解読が完了すれば、難解でなおかつ学術的興味の深いことの多い領域の解明ができるのに...。

doi:10.1038/fake483

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