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L1はクラスの和を乱す悪ガキなのか?
Nature Reviews Genetics
2004年7月1日
哺乳動物のゲノムには大量のL1が含まれているが、L1の転写産物は検出が難しい。これに対して、哺乳類以外の動物を使った実験系ではL1転写産物の発現が確認されていることから、哺乳動物の場合にL1転写産物の検出が難しいことの背後には、哺乳動物特有のL1転写抑制機構があるのではないかと考えられていた。この考え方の正当性を調べるため、Jeff Hanたちは、2つのヒトL1オープンリーディングフレームのうちの1つ(ORF2)を緑色蛍光タンパク質のオープンリーディングフレーム(GFPORF)と融合させ、そのRNA発現レベルを測定し、lacZ/GFP融合体(対照)と比較した。その結果、センス方向のORF2との融合体(GFPORF2)でもアンチセンス方向のORF2との融合体(GFPORF2AS)でもRNA発現レベルが大幅に低下することが判明した。
今回の研究が興味深いのは、GFPORF2とGFPORF2ASとでは、L1転写抑制を引き起こすプロセスが異なっていることが判明した点だ。Hanたちは、GFPORF2ASの場合に大量発現した低分子量のRNA分子種をクローニングして配列解読し、完全長RNAの発現レベルが低下する原因が早期ポリアデニル化であることを発見した。GFPORF2の場合には、早期ポリアデニル化によって完全長RNAの発現レベルが低下したケースは全体の15%に過ぎなかった。
次にRNAの半減期測定とリアルタイムPCR法による定量化が行われ、GFPORF2の場合に完全長RNAの発現レベルが低下する原因がRNA分解の増加とは考えられないことが示された。またORF2が転写の開始を阻害したとも考えられない。なぜならば、NRO(nuclear run-on)解析によって、GFPORF2転写産物の初期領域のポリメラーゼ密度が、対照のlacZ/GFP融合体のと同じであることが判明したからだ。ところが、この解析では、ORF2の配列に沿ってポリメラーゼ密度をさらに調べていったところ、ポリメラーゼ密度が徐々に低下することが判明した。よってORF2は、転写伸長を阻害することで遺伝子発現を抑制していると考えられるのだ。
Hanたちは、以上の実験結果について、バイオインフォマティクスを巧妙に用いて、さらなる解析を行った。具体的に言えば、発現量が最高レベルのヒト遺伝子群と最低レベルのヒト遺伝子群におけるL1配列の量を比較したのだ。そして特筆すべき結果が得られた。発現レベルの高い遺伝子にはL1配列が少なく、発現レベルの低い遺伝子にはL1配列が多かったのだ。遺伝子において全てのイントロンの占める割合やアイソコア上での位置付けを考慮に入れても、このパターンは変わらなかった。
Hanたちの実験データとバイオインフォマティクスのデータをつなぎ合わせると、in vivoでのL1挿入によって遺伝子の発現レベルが低下することを示す有力な状況証拠となる。また、今回の研究は、完全長L1配列がイントロンに挿入されると遺伝子発現が抑制されるとした従来の研究結果とも一致している。
Hanたちは、哺乳動物のゲノムでは、さまざまな遺伝子の相対的な発現レベルを微調整する機構にL1の転写抑制が転用された可能性があるとする興味深い考え方を示している。(L1の元々の目的は、遺伝子突然変異を誘発するレトロ転位が過剰に発生することを防ぐことであった可能性が非常に高い。)もしHanたちが提唱しているモデルが正しいのであれば、L1は「ゲノムの教室」の問題児なのではなく、先生を助ける優等生に近いかもしれないのだ。
doi:10.1038/fake485
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