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クラスターを形成しないHox遺伝子
Nature Reviews Genetics
2004年11月1日
左右相称動物の場合、前後軸に沿った体の各部分の発生を決める上で、Hox遺伝子は重大な役割を果たしている。これまでHox遺伝子は、常にゲノム上にクラスターを形成した状態で見つかっており、その配列は、発生過程における前後軸に沿ったHox遺伝子の発現の順序に対応しているのが通常だった。
今回の研究で、Seoたちは、O. dioicaのHox遺伝子を調べた。O. dioicaは、後に脊椎動物に進化した系統から早い時期に分岐した脊索動物の一系統を代表する動物だ。既にユウレイボヤ(Ciona intestinalis)のゲノム配列解読によって、いくつかの奇妙な特徴をもったHoxクラスターが発見され、尾索類のHox遺伝子が通常のものとは少し異なっている可能性があることがわかっていた。これら従来の知見を考えて予想しても、Seoたちの研究結果は意外なものだった。
Seoたちは、O. dioicaの9つのHox遺伝子すべてについて、完全長cDNAの同定、クローニング、系統発生的分類を行った。そしてin situハイブリダイゼーションを用いて、発生の初期におけるHox遺伝子の発現パターンを検討した。他の脊索動物の場合と同様に、発現パターンは、前後軸に沿って分布する組織によって異なり、それぞれの組織でHox遺伝子の一部が発現していた。しかしO. dioicaの場合には、それぞれのHox遺伝子の発現領域には、ほとんど重複がなかった。ただし前後軸に沿ったHox遺伝子の発現順序は、他の脊索動物のパラロガス遺伝子におけるHox遺伝子のクラスターの位置と一般的に相関していた。
と、ここまでは、研究は順調に進んでいた。Seoたちが、Hox遺伝子とその発現パターンについて、O. dioicaとその他の脊索動物とで比較した結果は、参考になり、注目すべきものだが、左右相称動物間に見られる全般的な相違点を考えると、特に変わった点はない。ところがSeoたちが、次に当然進むべき段階に入り、O. dioicaゲノム上でのHox遺伝子の構成を調べたところ、意外な結果が出た。
Seoたちは、9種類のHox遺伝子のcDNAプローブを使って、O. dioicaゲノムのBACライブラリーのスクリーニングを行い、当然のことながら、通常のHox遺伝子のクラスターを含むクローンの位置を手早く特定しようと考えた。ところが見つかったのは、Hox遺伝子が個別的に含まれている9種類のBACクローンだった。このクローンについては、追加的配列解読が行われたが、9種類のHox遺伝子は、それぞれがお互いから離れたところに位置し、O. dioicaゲノムのようにコンパクトなゲノムの場合に予想される高密度でHox遺伝子の周辺に数多くの無関係な遺伝子がで存在していた。
O. dioicaにおいてHox遺伝子がクラスターを形成しなくなったことは、脊椎動物の発生を研究する生物学者にとって特に、意外な発見と言えるだろう。これはマウスにおけるHox遺伝子発現の時間的協調にとって、Hox遺伝子がクラスターを形成していることが極めて重要なことは、明確に実証されていたことだからだ。これに対して、ショウジョウバエ、線虫や尾索類の一種C. intestinalisにおいては、一部断片化したHox遺伝子のクラスターが既に発見されている。Seoたちは、C. intestinalisとO. dioicaにおいてHox群の遺伝子が分散しているのは、これらの動物が脊椎動物との共通祖先から分岐した後、「確定的発生(determinative development)」モードに移行したからだとする興味深い仮説を提唱している。この仮説は線虫に関する研究データとも整合している。確定的発生モードになると、ほとんどの細胞系譜の運命は、受精した卵子が最初に分裂する際に決まる。そこでSeoたちは、体軸形成後はHox遺伝子の通常の機能が必要とされなくなり、それとともにゲノム上でのHox遺伝子のクラスター形成も必要がなくなったとする仮説を立てたのだった。根本原因が何であるにせよ、Seoたちの特筆すべき研究成果は、複雑な動物を作り出すためにはHox遺伝子のクラスター形成が究極的には必要となる、という広く行き渡り、長く維持されてきた学説にとって、これまでで最大の打撃となった。
doi:10.1038/fake487
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