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ぬるぬるした粘液? それを解読するのじゃ、ばか者め!

Nature Reviews Genetics

2005年6月1日

アメーバ状の原生動物Dictyostelium discoideumは、奇妙な動物だ。単細胞形態から多細胞形態に変化できるだけでなく、より高等な真核生物の遺伝子と相同な遺伝子を単純なモデル生物にしては数多くもっているからだ。ここ50年の間に、D. discoideumは、シグナル伝達、運動、接着や相互作用のような基本的な細胞プロセスの解明に役立ってきた。このほど34 MbのD. discoideumゲノムの塩基配列が解読され、これらの細胞プロセスの解明や医学研究への応用、そして多細胞体の発生に関する基本的な疑問に答える上でさらに役立つかもしれない。この原生動物の名前をつづり換えると、本記事の英文タイトル「Slimy mucus? Decode it, idiot!」となるが、D. discoideumゲノムの配列解読プロジェクト全体にとって幸先が良かった、と同プロジェクトの成果を報告した論文の著者の1人は記している。

D. discoideumには6つの染色体があるが、(rRNA遺伝子が含まれる)90 kbの多コピー染色体外因子と54 kbのミトコンドリアゲノムにも遺伝情報が含まれている。この染色体外因子とミトコンドリアゲノムの塩基配列は、既に解読されている。そのため、D. discoideumゲノムは、細菌ゲノムの10倍、これまでに配列解読された酵母ゲノムの3倍の長さとなっている。国際配列解読コンソーシアムは、ショットガンシークエンス法によって上記染色体を個別に配列解読した。その過程では、DNAにおけるアデニン+チミンの高い存在比(78%)に起因する課題を克服する必要があった。D. discoideumゲノムの推定遺伝子数は約12,500で、数多くのより高等な真核生物に近く、タンパク質をコードする遺伝子の割合はゲノム全体の62%と比較的高い。

意外だったのは、D. discoideumゲノムにコードされていると推定されるタンパク質の3分の1以上に反復性アミノ酸残基配列が含まれており、そのレベルが配列解読の完了した生物のいずれよりも高かった点だ。人間の場合には、このような反復配列は、数多くの疾患と関連しているため、D. discoideumゲノムにおける上記反復配列やその機能的意義を解明することは魅力的な研究目標となっている。このゲノムの約3%は、防御とシグナル伝達に関与する数多くの低分子の産生と輸送にかかわっていると考えられる。これらの豊富な二次代謝産物については、さらなる研究が必要となっている。

この論文で、L EichingerたちがD. discoideumの全プロテオームから推定する系統発生解析は、従来の知見を前進させ、D. discoideumが動物から分岐したのが、動物が菌類から分岐する前のことだったことを明らかにしている。(そして、この分岐は、動物が植物から分岐した後のことだとしており、この点では従来の多くの学説と異なっている。)これら4つの分類群には共通するタンパク質があることから、細胞移動、細胞分化と組織の編成のメカニズムに共通点があることが示唆されている。このように共通のタンパク質の数が多いことは、4つの分類群の共通祖先のゲノムが、従来推定されていた以上に大きいことを示している。

D. discoideumゲノムの配列解読が完了したことで、いくつかの研究領域での研究の進展が予想されている。D. discoideumは、比較的複雑なゲノムと進化系統樹上の位置によって、比較研究の対象となることは明らかで、その一方、より高等な真核生物と共通した細胞機構と発生経路があることは、人間の数多くの疾患の研究において役立つのだ。

doi:10.1038/fake493

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