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自然選択の道しるべをたどる
Nature Reviews Genetics
2006年4月1日
遺伝子調節の変異がヒトの進化で重要な役割を果たしてきた、とする仮説がある。この仮説の妥当性は、ヒトとその他の霊長類の遺伝子発現パターンのちがいを調べることで検証できる。Giladたちは、複数種を対象としたマイクロアレイを使って、肝臓における1,000種類を超えるヒトの遺伝子と他の3種の霊長類のオーソログの発現パターンのちがいを調べた。その結果、ヒト以外の3種の霊長類における発現量が同レベルで、ヒトにおける発現量がそれよりも多いか少ない19種の遺伝子が同定された。この結果は、これらの遺伝子の発現の変異がヒト系統において特異的に選択されてきたことを示す有力な証拠と言える。 特筆すべきなのは、ヒトにおける発現量が多かった遺伝子の中に転写因子遺伝子が特に多かった点だ。この結果は、ヒトのコード配列レベルで転写因子遺伝子が急速に進化したとする従来の研究結果と整合性があり、転写因子の変異によって、その標的遺伝子の調節が影響を受け、遺伝子発現の変異が生じたとする考え方とも一致する。
Voightたちは、別の方法を用い、ヒトゲノムで非常に最近になって自然選択を受け、いまだに固定されていない対立遺伝子を含む遺伝子領域を同定した。この研究では、国際ハップマッププロジェクトのSNPデータを利用して、3つの異なる個体群について選択的除去(selective sweep)が現在進行中であることを示す異常な連鎖不平衡パターンを含むゲノム領域を同定した。選択的除去とは、連鎖不平衡パターンを改変し、正の選択を受けた対立遺伝子を含む遺伝子領域のゲノム多様性を究極的に低下させる過程のことだ。解析の結果、ゲノム全体にわたって同様の領域が数多く存在し、その一部には正の選択を受けたことが従来の研究で実証されていた遺伝子が含まれていることが判明した。
また、Voightたちは、研究対象とした領域内で、自然選択を受けた遺伝子候補として最も有力な遺伝子を選び出した。その中では、嗅覚や生殖といった機能別分類が特に多く認められたが、これらは、従来から自然選択の標的として取り上げられていた。これに対しては、物質代謝に関与する遺伝子など、いくつかの新たな機能分類も顕著に認められた。この結果は、農業の発展期におけるヒトの食生活の変化に対応している可能性があり、興味深いものがある。今回のVoightたちの研究で示された自然選択の予想時期が農業の発展期と重なっているのだ。
この2つの研究で用いられた方法については、未解明の点が相当に多い。例えば、今回用いられた遺伝子発現ベースの方法は、肝臓で発現する遺伝子にしか用いられていない。またVoightたちは、自然選択の実際の標的遺伝子や適応の性質については数多くの不確定要素が残っていることを強調している。明白なのは、ヒトの進化の遺伝的基盤を探究する作業が、まだ始まったばかりだという点だ。
doi:10.1038/fake502
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