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食糧と生殖能力

Nature Reviews Neuroscience

2003年11月1日

飢餓状態になると生殖能力が低下することはよく知られているが、これは進化の観点からも筋が通っている。食糧の乏しい時代に数多くの子供を産むことが不利だからだ。それでは神経生物学的に見た場合、栄養補給と生殖能力との間にはどのような関係があるのだろうか? 最近Journal of Neuroscienceで発表されたSullivan et al. の論文によって新たな知見がもたらされた。 視床下部に存在するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ニューロンは、脳と生殖器官を神経内分泌的に結ぶ重要な役割を果たしている。GnRHニューロンには、γ‐アミノ酪酸(GABA)放出ニューロンからGABAが入力される。通常、GABAは、成体のニューロンを抑制する神経伝達物質なのだが、GnRHニューロンを興奮させる作用がある。 Sullivan et al. では、当初、GABAが介在するGnRHニューロンの興奮が絶食によって抑制に転換するという仮説が立てられた。しかし、この仮説は、その後の実験結果によって実証されなかった。すなわち、雌のマウスに(生殖周期の進行を止めるのに十分な)48時間の絶食をさせても、GABAA受容体は興奮活性を示したのだ。次にSullivanたちは、シナプス前GABAニューロンの活性が絶食によって変化するかどうかを調べた。するとGnRHニューロンには、絶食後もGABA作動性の興奮性シナプス後電流(sPSC)が自発的に見られたが、その頻度は下がっていた。一部のGABA放出ニューロンは、満腹ホルモンであるレプチンの受容体を発現するが、Sullivanたちは、レプチンをマウスに投与すると、sPSCの頻度に対する絶食の効果を逆転させ得ることを実証した。 またGABAA受容体の活性化に対するGnRHニューロンの応答がレプチンによって増強されることを示した証拠もある。Sullivan et al. では、餌を与えておいたマウスの脳切片における微小なPSC(mPSC)が測定された。この測定で、脳切片はレプチン処理された上でテトロドトキシン処理され、シナプス前終末からの活動依存性シグナルが遮断された。この測定で、レプチンはmPSCの頻度に影響しなかったが、振幅、上昇率と減衰時間が増えていた。 よってGABA放出ニューロンは、体内でのエネルギー蓄積状況に関する情報をGnRHニューロンに伝える役割を果たしている。そしてレプチンには2つの効果があると思われる。第1にシナプス前終末からのGABA分泌を促進し、第2にシナプス後GnRH細胞のGABAに対する応答性を高めることだ。GnRHニューロンがレプチン受容体を発現するかどうかを解明することは、今後の研究に委ねられる。ただし機能データには、その可能性が示されている。人間の場合、視床下部の機能不全があると不妊症が起こることが多い。そしてSullivan et al. では、GABAが介在する神経伝達がGnRHニューロンによって調節されるプロセスが解明されれば、不妊症の新たな治療法の開発に役立つ可能性があるという考え方が示されている。

doi:10.1038/fake503

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