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Nature Reviews Neuroscience

2002年3月1日

薬物依存症になりやすい人となりにくい人がいるのはなぜか? これは薬物乱用の研究における最大の難問の1つだ。どうやら何らかの形で脳内化学作用、特に報酬系に関与するドーパミン作動系の変性が原因となっている可能性が高いらしい。ただ、この変性の具体的中身、そしてその発生メカニズムは解明されていない。  ヒトを使って、この問題を研究することは非常に難しい。そこで今回発表されたサルを使った研究が、何を調べるべきか、という点について何らかのヒントになるかもしれない。D Morganたち(米ウェイクフォレスト大学)は長期実験を行って、薬物乱用を起こしやすいサルにおけるドーパミン作動系の機能と社会的要因の果たす役割を調べ、社会的優位性によってドーパミン作動系の機能やコカインの自己投与量の変化が影響を受けることを発見した。  今回の研究では、まず最初に、サルを1年半にわたって個別的に飼育して、陽電子放射断層撮影法(PET)を使った脳画像診断を行った。次にこれらのサルを社会集団に入れた。社会集団での3ヶ月の生活を経て、支配的な地位についたサルの脳について陽電子放射断層撮影を行ったところ、中脳において[18F]フルオロクレボプリド(FCP)という放射性リガンドのドーパミン作動性受容体への結合が著しく増進したことが判明した。このことは、サルの中脳でドーパミン受容体が増えたか、あるいは細胞外ドーパミンが減ったか、のいずれかであったことを意味している。これに対して従属的地位にあるサルの場合にはFCPの受容体への結合に変化は見られなかった。  このようなドーパミン作動系の機能の違いは、コカイン自己投与率の違いと関連していた。従属的地位にあるサルは確実にコカインの自己投与ができたのに対して、支配的地位にあるサルはできなかった。このことからは、支配的地位にあるサルがコカインの強化効果に耐性を有していたことが示唆されている。  従来、サルを使ったいくつかの研究において、社会的順位がドーパミン作動系の機能と関係があり、コカインのような薬物の効果を左右する可能性があることが示されていた。今回の研究では、個別的に飼育された後に支配的な地位についたサルの中脳のドーパミン作動系が急激に変化しうることが初めて明らかにされた。もしコカインの自己投与量の違いがドーパミン系の変性によるものであれば、サルの社会的地位の違いがコカインの自己投与量の違いを生み出しているということになる。  当然のことながら、この種のモデルを薬物依存症患者と結びつけるまでには長い道のりが予想される。しかしサルにおいてドーパミン作動系の機能や薬物が関係した挙動に対する社会的文脈の影響が解明されていけば、これと似た原因でヒトのドーパミン作動系が影響を受けたり、薬物依存症になりやすいヒトがいたりするのかどうか、という論点の解明も進み、習慣性薬物の強化特性を阻害する手段を検証する方法の新たなモデルとなるかもしれないのだ。

doi:10.1038/fake504

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