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球脊髄性筋萎縮症を治療する有望な方法

Nature Reviews Neuroscience

2003年7月1日

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、アンドロゲン受容体遺伝子においてポリグルタミンをコードする配列部分が伸長することによって発症し、アンドロゲン受容体を含む封入体が脳幹と脊髄の運動ニューロンの核内に存在することを特徴とする。他のポリグルタミン病の場合と同様、SBMAに効果的な治療法はない。しかし、この状況が、まもなく変わるかもしれない。勝野雅央(名古屋大学)たちが、リュープロレリンを使ったホルモン療法によってSBMAのマウスモデルのSBMA表現型が阻害されたことをNature Medicineに発表したからだ。

勝野たちは、ポリグルタミンをコードする配列部分を有するヒトのアンドロゲン受容体の一種を発現させることでSBMAのトランスジェニックマウスモデルを既に作製していた。このマウスモデルは、SBMAの特徴である表現型を数多く再現している。具体的には性特異性(SBMAの症状は女性患者より男性患者の方が相当に重い)やニューロンの核内に封入体が存在することなどだ。このマウスモデルを去勢すれば、症状は改善する。しかし今回の研究で、勝野たちは、去勢ほど過激でない治療法の考案を目指した。彼らが注目したのは、リュープロレリン(テストステロンの放出を減らす黄体形成ホルモン放出ホルモン作動薬)とフルタミド(テストステロンの放出やアンドロゲン受容体の核への移動を妨害しないアンドロゲン拮抗薬)という2つの分子だった。その結果、リュープロレリンによって核内封入体の数が大きく減り、トランスジェニックマウスの筋萎縮が大きく改善されることが判明した。さらにリュープロレリンによって、トランスジェニックマウスに見られた運動障害は完全になくなり、死亡例がゼロとなった。リュープロレリンを投与されていないマウスの死亡率は100%に達した。これとは対照的にフルタミドには有益な効果は見られなかった。

今回の勝野たちの研究で得られたデータからは、アンドロゲン受容体がリガンドに依存する形で細胞核内へ移動する作用の重要性が浮き彫りにされている。このことは、SBMAの原因として、受容体の正常な機能が失われることではなく、変異タンパク質が毒性機能を獲得することが関係していることを示している。リュープロレリンは、既に臨床現場で一部のタイプの前立腺癌の治療に用いられているが、性交不能、骨粗鬆症のような副作用があり、不妊症を引き起こす可能性もある。このようにリュープロレリンには弊害もあるが、SBMAの治療薬として最も有望であり、SBMA患者を対象とした臨床試験が実施中であるのも当然のことと言える。

doi:10.1038/fake517

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